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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

コスパ・タイパの成れの果て


 2017年4月の改正社会福祉法の施行以降、依然として、社会福祉法人をめぐる不祥事が後を絶たちません。今日は前回のブログを受けて、この問題の補足的な解説をしておきます。

 法人資金の着服、「経営権の売買」、理事長就任をめぐる贈収賄、評議員会・理事会の形骸化と議事録のでっち上げ…。これらはいずれも、悪辣で倫理にもとる、一部の法人関係者の引き起こした事件です。

 それでも、一部の法人の問題に過ぎないと片付けるわけにはいかない、福祉政策の構造的問題があります。

 「ケア」のあり方を議論の出発点に据えず、「市場版選択のロジック」(2022年5月30日ブログ参照)を柱に、経済効率(コスパ=コスト・パフォーマンス)と時間効率(タイパ=タイム・パフォーマンス)を上げて利益追求を追い求める、福祉・介護システムを作ってきた社会福祉基礎構造改革そのものの問題です。

 この間に社会福祉法人の不祥事は、一連の政策の成れの果てに咲いたあだ花です。

 社会福祉法人改革以降に起きた最初の贈収賄事件は、山梨県甲府市の社会福祉法人「大寿会」で発生しました。理事長ら3人が自分たちの「息のかかった者」を理事に選任するよう5人の評議員にそれぞれ20万円を渡したのです。これら8人は、2021年2月に逮捕されました。

 この事件の背後には、「ケア」とは全く無関係な「儲け話」が絡んでいました。この法人の施設の場所がリニア新幹線山梨県駅の予定地に隣接しており、この法人を乗っ取って、「駅近物件」を入手することが真の目的でした(https://nichizei-journal.com/one06、2021年5月27日の記事参照)。

 社会福祉法人をめぐる2件目の贈収賄事件は、前回のブログでご紹介した福岡県糸田町の「貴寿会」で起きました(https://mainichi.jp/articles/20231223/k00/00m/040/129000c)。

 これらの事件は、社会福祉法人に対する3年に1回の自治体による監査を嘲笑うようにすり抜け、理事長の「お友だち」と「イエスマン」で構成する「形だけの評議員会・理事会」をつくり、議事録をでっちあげています。

 静岡市清水区の社会福祉法人「誠心会」で発生した理事長による法人資金の横領事件では、介護報酬を担保とする借金の方法にも、悪知恵を働かせています。

 銀行から「介護報酬を担保として借金する」には、この件を承認した理事会の議事録の銀行への提出が求められます。しかし、ファクタリング会社からの借金は「売掛債券の売買」という性格から、議事録を求められることはありません。このあくどさには、いかにも手慣れた感が否めません(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/865550?display=1)。

 しかし、これらの不祥事には大きな疑問が残ります。手口は安易で、稚拙で、乱暴です。

 監査や法人の予算・決算でいずれはバレるし、借金の返済が始まればすぐにでもバレてしまう。前の理事長にお金を渡して、新しい理事長に就いた途端に、短期決戦で法人資金を横領したとしても、その後に逃げ切れる保障はどこにもありません。

 まるで暴力団が会社を乗っ取って、会社の資金を一気に抜いて倒産させるような粗暴さです。さすがにこのような乱暴な手口は、ごく一部の事件であるように見えます。

しかし、社会福祉法人にこのような事件がしばしば発生する背後には、福祉政策をめぐる構造的問題があります。一部の乱暴な事件は、構造的問題を形作る氷山の一角に過ぎないのです。

 巨額のお金が動く贈収賄や横領の事件の広大な裾野には、「形だけの評議員会・理事会」をテコに「オーナー型経営」で利潤追求を貫こうとする、今日的な社会福祉法人のありふれた実態があります。利益追求に走る法人の「経営者」が決してすべてではありませんが、だからといって「例外的存在」とは言えません。

 外車やレクサスを乗り回しながら私腹を肥やしている姿は珍しくありません。いうなら非課税の宗教法人で大きな神社仏閣を経営する「生臭坊主」「生臭神主」が、外車を乗り回し、煩悩に塗れた日々を過ごす姿と何も変わらない。

 2016年改正社会福祉法に向けた議論の論点に、社会福祉法人の「イコールフッティング」がありました。

 ここでは、社会福祉法人の公益性と非営利性を確認しつつ、同種の社会福祉事業にNPOや株式会社が参入するようになった変化を踏まえて、「経営主体間で異なる税制上の措置を見直すべきではないか」と指摘しています。

 第1種社会福祉事業である特別養護老人ホームや障害者支援施設等の24時間型施設を、「公益性と非営利性」を根拠に社会福祉法人に独占させる仕組みは、利用者の側からみれば、確かにいささか時代錯誤です。

 高齢者のデイサービスや訪問介護、そして障害のある人の通所型の生活介護や就労継続支援事業等にも、高い倫理性、支援の専門性、および利用者の権利擁護を担保することが必要不可欠です。

 つまり、すべての社会福祉事業は、第1種か第2種かにかかわらず、「公益性と非営利性」の原則を貫くことが当たり前なのではないか。

 つまり、「ケア」の充実とケアをめぐる利用者の権利擁護の観点からいえば、社会福祉法人、NPO法人。株式会社等の営利セクターのいずれに対しても、制度サービスの範囲内においては「公益性と非営利性」を原則として然るべきなのです。

 しかし、「イコールフッティング」の議論は、「ケアのあり方と人権擁護」を眼中に入れず、社会福祉法人、NPO法人、株式会社等の経営基盤を均等化すべきだという議論を進めます。ここで福祉政策から、産業政策への変質を進めていきます。

 社会福祉法人改革以降、社会福祉法人が営利追求や内部留保に経営を注力してきた現実があるとすれば、社会福祉法人の側からイコールフッティングの正当性に接近してきたことになります。今後は、税制優遇の廃止に向けた圧力が高まるのではないでしょうか。

 それでも、まずは、社会福祉法人の「経営に走った」責任について、そのすべてを、社会福祉法人になすりつけるのは筋違いであることを確認しておく必要があります。

 2000年の社会福祉法施行以降、社会福祉法人が「自由な経営体」に移行したのは、事のはじまりに過ぎません。介護報酬や障害福祉サービス等報酬の改訂を繰り返す不安定な経営環境に晒すことによって、社会福祉法人に「企業的経営」を強迫し続けたところに問題の真相があります。

 この政策手法が、イコールフッティングに向けて社会福祉法人を変質させてきた諸悪の根源です。

 2000年4月からを「福祉ビッグバン」と称して、社会福祉事業を通じた「富の蓄積・形成」が始まったのです。すると、社会福祉法人の理事長の中に、従来のように「篤志家として勲章をもらう」だけで終わるのではなく、「懐も豊かにしておきたい」と欲に目のくらむ輩が出来するのは、浮き世の常。

 そこで、愛知県瀬戸市の社会福祉法人「菱野団地子どもセンター」の前理事長は守銭奴の極みと化し、「内部留保の法人資金2億4000万円を投資詐欺で使い果たす」横領事件を引き起こすのです(https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20231001/3000032015.html)。

 しかし、社会福祉法人の非課税扱いを廃止するという政策方針は、業界団体の激しい抵抗を惹き起こすことが想定されるためにあまり現実的ではない。

 むしろ、「非課税扱い」の継続を飴に、政策誘導を図るチャンネルとして社会福祉法人を使い続けながら、少子高齢化の進む地域の福祉ニーズの変動に対応する仕組みを構想する。
「社会福祉法人改革」以降、営利企業と遜色のない利益追求型の経営体となって、社会福祉法人が自らイコールフッティングに接近してきた実態を積極的に活用しない手はない。

 その仕掛けの一つが、前回のブログで論じた「社会福祉連携推進法人」の仕組みです。

 内部留保を原資に社会福祉法人間の資金貸付ができるようにするのは、「実質的なイコールフッティング」に行き着かせる「入口」に過ぎません。たとえば、次のような成り行きを想定できます。

 社会福祉法人同士の資金貸付の限定は、いずれ「経営方法に関する知識の共有支援」の一環として、親会社の下での社員間(社会福祉法人・NPO法人・株式会社の施設・事業所間)の「経営者の交流・交代」を進めながら、社会福祉法人間に限らない社員相互の資金貸付を実施できるところまで持っていく。

 このような漸進的戦略によって、「イコールフッティングを柱とする社会福祉法人改革」を図ることによって、地域ごとの少子高齢化の進捗に応じた、民間主導の社会福祉事業のスクラップ・アンド・ビルドを進めていく。ここに政策目的の本丸が置かれているのです。

 福祉政策の根幹から「ケアの充実と人権擁護」が消え、コスパ・タイパの観点を貫く産業政策への変質が進んでいます。

 このような福祉政策の経緯に抗して、社会福祉法人本来の公益性と非営利性を堅持し、実のある公益事業にも汗をかいて、支援サービスの質的向上と人権擁護に資する事業計画によって人材養成に力を入れてきた社会福祉法人は存在しています。

 私たちは、このような「真の社会福祉法人」についてはこれまで以上に守り発展させなければならない。コスパ・タイパの成れの果てで利潤追求に拝跪するようになった「似非社会福祉法人」については、業界から退場させるか、理事会・評議員会の総入れ替えを強く求めるべきです

スズメの群れ

 冬は、多くの野鳥が群れを作ります。画像はこの群れのごく一部で、夕方近くになると特定の電線に、少なくとも200羽以上のスズメが群れています。夕暮れになると姿は消え、ねぐらとなる「スズメのお宿」に移動するのでしょう。「お宿」でもこれだけの数が群れているかどうかは、私には分かりません。

 先日、テレビ番組の「林修の今知りたいでしょ」でカラスが冬に群れる理由についての間違った説明があり、取材源であった東大名誉教授の樋口広芳先生に謝罪と訂正を行うアクシデントがありました。真実を伝えなければならない原則をはずれ、視聴率に番組制作のコスパ・タイパに走った成れの果てで発生した事件ではないでしょうか。