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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

ハラスメント・虐待等の報道が目立つ一年


 今年は、ハラスメントや虐待等のニュースが間断なく続きました(全貌は次を参照のこと https://www.cuorec3.co.jp/info/news.html)。

 まずは、福祉領域の施設・事業所における虐待事案を見てみましょう。

 この22日に明らかにされた熊谷市立吉見保育所の虐待事案。女性所長、主任保育士のほか4人の保育士が、19人の子どもたち(在籍児59人の約1/3)に心理的虐待・身体的虐待を続けていました。

熊谷市立吉見保育所―「恐怖の館」に見えてきます

 被害児19人の内10人は、主任保育士が担任を務める0~1歳児クラスの乳児で、このクラスを担当する4人の保育士も心理的虐待に加担しています。「何様なん?」「バカ頭。あのお父さんだし」「牛舎みたいな匂い」などと暴言を重ねました。

 子どもたちを育もうとする基本姿勢がなく、もはや鬼畜の所業のよう。毎日、親御さんたちが子どもの送り迎えをしているのですから、保育所の職員はそれぞれの親子と「顔見知りの関係」以上の親密さをつくって、子どもたちを育む社会的責任があるはずです。

 大阪府吹田市の放課後等デイサービス「アルプスの森」の虐待事件(2023年11月27日ブログ参照)と同様、支援者にあるべき基本的な支援スキルと倫理観は欠如し、いささか信じ難い虐待に行き着いています。

 このような虐待が、行政が指定認可した支援施設・事業所で発生している点は、現行制度の根本的欠陥を明示しています。行政が指定した支援施設・事業所に対して、利用者が虐待の発生を疑い自力で点検することなど不可能ですから。

 12月18日には、東京都八王子市にある滝山病院の虐待事案に係わる第三者委員会報告書が公表されました。

 この報告書によると、2020年以降、看護職員が患者に対して、頭を叩く、頭をベッドに押さえつける、首を絞める、心電図の吸盤を額につけて内出血させる等の暴行に加え、違法な身体拘束を常態化させていたとあります。まさに、「恐怖の館」ではありませんか。

 看護師5人は暴行容疑で逮捕され、書類送検されました。しかし、第三者委員会から「怠慢と無責任」と指摘された院長と経営陣については、これまでのところ具体的な社会的制裁があったという報道はありません。病院における虐待防止の責任者は法的に病院長に置かれていますから、看護師だけが逮捕・送検されたというのは、間尺が合いません。

 滝山病院の虐待事案については、東京都の検査・指導の不備も第三種委員会は指摘しました。虐待の通報を受けても、検査は事前通告で行うために、警察の立件まで虐待を確認できなかったのです。

 虐待防止の取り組みの要となる自治体の役割はまことに重要です。この一年は、残念ながら、この点にも大きな疑問符がつきました。

 まず、自治体内部のパワハラ・セクハラ事案がてんこ盛りです。沖縄県浦添市では3年以内にパワハラ・セクハラを受けた職員が124人に上ります。神奈川県小田原市では2022年と23年の市職員調査(複数回答)でパワハラ690件とセクハラ229件が明らかとなり、「上司や相談窓口に相談しても解決しない」事案が149件。まさに異常事態です。

 小田原市のパワハラの中には、馬乗りになって殴打とか、上司から5時間叱責を受ける事例などもあり、ほとんど犯罪といってもいいハラスメントが放置されてきました。

 このような自治体に、はたして人権擁護の取り組みができるのでしょうか。障害者虐待への対応や障害者差別解消支援地域協議会の取り組みについて、人権侵害の巣窟となっている自治体の組織と職員に、人権擁護に寄与する仕事ができるとはとても考えられない。

 先述した熊谷市立吉見保育所や神奈川県立中井やまゆり園のように、自治体直営の施設で虐待が発生している事実は、自治体組織そのものが人権擁護に向けた職員の方向づけを怠ってきた証左です。

 さらに、施設従事者等による障害者虐待について特筆すべき点は、2022年度の虐待対応件数の実態で、グループホームが最多である点です。

 支援スキルの貧しさを放置したまま、営利セクターの参入を進めてきた当然の帰結です。「地域生活移行」の主要な受け皿となるグループホームに対する不信感は否応なく高まりました。

 これまでの形式的な「地域生活移行」を止め、障害者権利条約第19条に即した「地域とともにある慈しみに溢れた暮らし」を実現するための新しい施策のスキームを一から創り直す他ありません。グループホームの支援体制の貧しさと職員の専門的スキルの欠如は、致命的欠陥です。

 滝山病院や神奈川県立中井やまゆり園の虐待事案を正視すると、これらの病院や施設は、2012年10月に障害者虐待防止法が施行されて以来、今日まで、虐待防止に向けた取り組みを何一つ積み重ねてこなかったことが明白に分かります。

 両者ともに、組織幹部の虐待防止に係わるガバナンスや法的責任は空っぽ。私には、単純な「不作為」とはとても思えない。

 滝山病院では、病院長や経営幹部だけを利する経営・運営体制に傾いていたことは間違いないでしょう。神奈川県立中井やまゆり園では、以前からやってきた施錠監禁の身体拘束やその他の多様な虐待を隠し通すことに、歴代施設長を守る(本庁と先輩公務員を守る)意図があったのではないかと強く疑っています。

 ある障害者支援施設で虐待事案が発生し、私が虐待防止研修をすることになりました。施設の実態を調べてみると、その法人・施設にある「虐待防止マニュアル」の内容は違法です。

 施設従事者等による障害者虐待があると思われる場合は、速やかに市町村虐待防止センターに通報しなければならないというのが虐待防止法の決まりです。ところが、そこのマニュアルは「まず施設長に連絡し、施設長の判断に従う」仕組みに捻じ曲げられています。

 職員にヒアリングをしてみると、その施設長は虐待の疑われる数々の事案を内部対応で済ませてきた(=もみ消してきた)ことは明らかでした。

 そこで、この事実はとても看過できないため、これらの事実を文書にまとめ、この施設を所轄する中核市を直接訪ねて、担当課の課長と係長に報告したのです。しかし、この中核市は結局何もしませんでした。事なかれ主義の権化のような自治体です。

 人権擁護の視点を含めた社会福祉の実施体制の抜本的刷新が必要です。どこからどうみても、「社会福祉基礎構造破綻」は明らかです。

 次に、芸能界のハラスメント。これは信じがたいほどひどい。

 ジャニー喜多川の性犯罪に周囲の関係者の傍観者性と高飛車な態度。宝塚の上級生によるいじめ・パワハラとそれを隠蔽しようとする組織幹部の傲慢さ。これらに私は、プチ・ナチズムを感じます。

 これらの芸能界ハラスメント問題への追求に対し、ファンクラブが盾となる姿は、「親衛隊」の面影が彷彿とします。

 自衛隊のハラスメント事案では、有罪判決が出ました。

 陸上自衛隊郡山駐屯地に在籍していた五ノ井里奈さんに対する、3人の男性隊員によるセクハラ行為が裁判で有罪となりました。その他にも、広島県呉地区の海上自衛隊の部隊でも50代の男性海曹から女性隊員がセクハラを少なくとも4回受けていたことが明らかになっています。

 ロシアによるウクライナ侵略において、ロシア軍兵士がウクライナの女性を凌辱する問題が起きていますが、わが国の自衛隊の男性隊員にも同様の問題を惹き起こしかねない体質のあることを懸念させます。まことに深刻な問題だと受け止めるべきです。

 世の中のいたるところに、ハラスメント、セクハラ、いじめ、虐待があり、それが野放しにされてきた実態がよく分かります。このような現実の下で、子どもたちの「教室のいじめ」だけをなくそうというのは不可能です。

 関東地方には自衛隊の駐屯地がいくつもあって、その駐屯地の自衛隊員のための官舎(団地風の建物)のある学区では、小中学校のいじめが官舎に住む自衛隊員の階級に従って発生するといいます。

 簡単に言うと、自衛隊員としての階級の高い親の児童生徒が、同階級の低い児童生徒を学校でいじめるのです。この事実は、該当する小中学校の複数の校長から伺いました。おぞましい限りです。

 最後に、この一年で最大の不信を抱かざるを得なかったのはマスコミです。ジャニーズ問題で納得できるような説明責任を果たしているテレビ局は皆無です。週刊文春だけが隠された事実の報道に奮闘している印象で、新聞各社も問題の後追い感が拭えません。

 今、小学校で担任の先生が子どもたちに「家で新聞を取っている人、手をあげて」と言うと、手の上がる数は40人学級1クラス当り2~3人。大学生の場合、実家を離れた下宿生で新聞を購読するのは皆無、テレビを持つのは1/4程度。実家からの通学生でテレビを見る習慣があるというのはごくごく少数派になりました。

 新聞は、読売新聞の独り勝ちという報道もあるようですが、私の住む川越では、今年、読売新聞の最大手販売所が倒産しました。小学校の子どもたちの家庭の5%程度しか新聞を購読しないとなると、このまま生き残る新聞社はないように思えてきます。若者の多くはスマホのニュースとYouTubeを情報・娯楽のツールにしていますから、新聞もテレビも「おわコン」感が濃厚です。

 このようにみてくると、いたるところで社会矛盾は激化し、大きな転換点に生きている気がします。この一年に明らかになった人権侵害や腐敗した組織のあり方に抗い、これまでの成り行きに身を任せるのではなく、新たな社会制作に向けた協働をそれぞれの持ち場から積み重ねることを大切にしたいと思います。次代に平和のバトンをつなぐために。

メリー・クリスマス!!

 一年の最後は、丸く甘い画でしめましょう。皆さん、どうかよいお年を。