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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

退場すべき支援者・支援事業者


 「相変わらず」な虐待事案の発生にあきれ果てています。施設従事者等による障害者虐待を事前に防止する制度的仕組みには、根本的な欠陥があるのではないでしょうか。今回と次回のブログに分けて、この問題を考えます。

 合同会社ミヤビの運営する大阪府吹田市の放課後デイサービス「アルプスの森」で、悪質極まりない虐待事案の発生が明らかになっています。

 利用者である男子高校生に頭突きや頭を床に叩きつける等の暴力を重ねたほか、別の男子中学生に対しても顔を平手打ちにするなどの暴力がありました。

 これらの虐待事案は、今年の2~4月の間に、放課後デイサービスの代表(管理者)と2人の職員の計3人が「共謀して」発生したと報じられています。管理者を含む組織的で意図的な虐待であったことは間違いありません。

 この放課後デイサービスでは、昨年12月にも、男子中学生が送迎者で到着した直後に「行方不明」となり、一週間後に近くの川で死亡しているのが見つかっています。大阪府警が防犯カメラの映像を確認したところ、暴行容疑が浮上したといいます。

 昨年12月の虐待事案からわずか数カ月しか経たないうちに、今回の虐待が明るみに出たのですから、合同会社ミヤビとその傘下にある支援事業所に、虐待防止に取り組む組織としての統治能力はなく、個々の支援者の専門性は無きに等しいのではないでしょうか。

 これらの事案の被害者は、知的障害とASDを併せもつ「強度行動障害」のある人たちだと報じられていますが、このような報道のあり方には疑問を禁じ得ません。虐待発生の口実に「強度行動障害」を持ってくるのは、多くの場合、筋違いだと考えます。

 この事業所の虐待発生の要因の一つに「強度行動障害」が絡むとしても、それが大きな要因であるとは限らない。むしろこの支援事業者と管理者・職員の専門性と管理運営には、障害のある人を支援するために必要十分な資質と組織的体制が、初めから欠如していたとみるのが妥当です。

 知的障害とASDを併せもつ利用者への支援方法に専門性が欠如する場合、支援者にもっともありがちな経験値は、支援者の力の優位性をテコにした利用者支配です。この放課後デイサービスは、管理者を筆頭に、暴力的で威圧的な関与によって利用者に「言うことをきかせる」ことを「支援」であると確信している向きがあったはずです。

 とくに、利用者が子どもの場合、大人の支援者の持つ圧倒的な力の優位性を前面に出した関与によって、「子どもが言うことをきいた」という粗雑な成功体験を重ねることはいとも簡単です。家庭内部の子ども虐待のはじまりにおいても、親のこのような「誤った成功体験」がしばしば見受けられます。

 暴力や威圧的な関与によって「言うことをきかせる」という「誤った成功体験」は、支援に係わる専門性と倫理性の欠如とあいまって、あらゆる虐待やDVを慢性化させる要因の一つです。

 たとえば、2017年に発生した栃木県宇都宮市の障害者支援施設ビ・ブライトの虐待事件の公判で、元職員は「暴力を振るう別の職員に利用者が従うのを見て、暴行するようになった」と証言しています。

 利用者を職員の「暴力」によって従わせることが「支援」であると誤解している支援者がいるとともに、そのような職員で構成された障害者支援施設・事業所が決して珍しくないという事実を直視しなければなりません。

 年齢にふさわしい障害のある市民としての生活を豊かにするための支援の専門性がないどころか、学習努力の跡もなく、イメージすることもできない支援者と支援事業者です。

 ここでは、「支配-従属関係」を構築する関与が「支援」となっています。場合によっては、「支配-従属関係」の「職員の言うことをきく」範囲内において、職員は利用者に「優しく」接します。いうなら、「飴と鞭」による支配を「支援」と勘違いしているのです。

 これはDVの発生構造と同様であり、「制縛圏」(制限を加えて自由を束縛する関係性)を構成する施設・事業所です。

 支援に係わる専門性と倫理性の根本的に欠如した支援者とその組織が、放課後デイサービスの経営・運営を続けることのできる現行制度は間違っています。障害のある子どもに対する支援サービスの中で人権侵害を積み重ねるような事業者に対して、速やかな「退場」と新たな参入を許さない制度設計が絶対に必要です。

 この11月21日、東京都文京区では、派遣のベビーシッターが女児2人に性的虐待を加え、警視庁が不同意わいせつ罪の疑いで逮捕したと報じられています。ベビーシッターによる性的虐待の事案は繰り返し発生しているにも拘らず、派遣事業者に対する有効な虐待の事前防止対策が打たれているとは言えません。

 障害者のグループホーム事業を全国展開している株式会社「恵コーポレート」は、この間も食材費を過大徴集していただけでなく、訪問看護に伴う診療報酬や障害福祉サービス等報酬の「不正請求」の事実や疑いが明らかになっています。

 この企業のコンセプトは、「障がいのある方が安心して福祉サービスを利用し、自立した暮らしができる明るい未来を心から作っていきたいと思っています」とホームページに謳っています。「看板に偽りあり」の真骨頂でしょう。

 恵コーポレートの不正は、内部告発を無視した上に、全国におよぶ多数の事業所で発覚しつつありますから、一部の行き違いによるものではなく、「組織的な不正」である疑いが濃厚です。

 営利セクターによる不正請求事件は、介護保険の施行された早い段階で摘発されたコムスンが有名です。当時、厚労省はコムスンに厳格な対応をして、介護の領域から退場させました。これは、まったく正しい。

 福祉・介護サービス等のケアに係わる政策の国際的趨勢は、公的サービスを柱に「家族依存からの脱却」を図る方向にあります。ここで、ケアの構成については、国による違いはあるにせよ、北欧を含めて市場によるケアの調達は必要不可欠になっています(落合恵美子著『親密圏と公共圏の社会学』、2023年、有斐閣)。

 すると、「市場によるケア」の質を厳格に担保しうる制度的仕組にしない限り、市場は「悪貨が良貨を駆逐する」ことになる。そこで、報酬の不正請求や虐待防止に取り組むことをしない営利セクターについては、「レッドカードで一発退場」の仕組みを設けるべきです。

 報酬の不正請求は、制度の悪用と公金をかすめ取るれっきとした犯罪です。虐待防止の取り組みについては、虐待による被害の取り返しのなさに注目した、支援事業者への厳しい対応が必要です。

 これらの点は、社会福祉法人を含む非営利セクターに対しても同様ですが、グループホームや放課後デイサービスなどに新規参入の目立つ営利セクターの傍若無人な振舞はあまりにも目立つのではありませんか。

 施設従事者等による障害者虐待による被害は、取り返しのつかない性格をもちます。放課後デイサービス「アルプスの森」や障害者支援施設「ビ・ブライト」で長期間、繰り返し激しい暴力を振るわれた障害のある人たちには、二次障害の発生と拡大や後遺障害が残ります。

 虐待は、事後的な対応の中で被害者を「ケア」しても、必ずしも修復できるものではありません。「強度行動障害」を虐待発生の口実に用いる風潮が、神奈川県立中井やまゆり園の虐待事案を筆頭に跡を絶ちません。

 実は、このような施設こそ、行動障害を拡大させている施設なのです。現在、放課後デイサービス等を念頭に、行動障害に係わる支援の「研修制度」があるといいますが、あまりにも、途方もなく不十分です。

 知的障害とASDを併せもつ子ども・成年の個別支援の実務を支援者が間違いなく展開できるようになるためには、少なくとも、数年間の学習とOJTによる実務訓練が必要です。数日間の座学とグループワークで「はいOK」なんて研修は、アリバイ作りに過ぎません。

 支援に係わる専門性や虐待防止に係わる取り組み方について、指定支援事業者としての認可後に対応させる仕組みの欠陥が、利用者とその家族に取り返しのない傷をもたらしています。このような事業者に対する「レッドカードによる一発退場」の仕組みを作るとともに、虐待防止に係わる「事前的対応」を強化した制度的仕組みが必要です。

大阪弁にならないお好み焼き―『翔んで埼玉』

 映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて』が封切られました。「壮大な茶番劇」と謳っていますが、登場するそれぞれの地域の風潮や政治的な特質を踏まえた、高い「風刺性」が実に面白い。

 埼玉に本拠地を置くスーパーマーケットのベルクが、『翔んで埼玉』とのコラボ商品として「大阪弁にならないタコ焼き」と「大阪弁にならないお好み焼き」を売り出しました。映画の中で、全国を大阪の植民地にしようと企む大阪府知事(片岡愛之助)の開発した「白い粉」が登場します。この粉で作られた大阪名物の粉物(タコ焼き、お好み焼き、イカ焼き等)を食べると、誰もが大阪人の気性と言葉に変わってしまうのです。

 埼玉解放戦線の麻美麗(GACKT)と壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、この粉物を食べさせられた途端に、見事なまでにネイティヴな大阪弁をしゃべるところは、大阪人の私にはいささか感動的でした。

 この10月、モンテネグロ首相に埼玉大学経済学部の卒業生であるミロイコ・スパイッチ氏が就任しました(https://www.saitama-u.ac.jp/news_archives/2023-1101-1821-9.html)。
『翔んで埼玉』の「日本埼玉化計画」(何にもないところで、慎ましく生きていく地域)は、もはや「世界埼玉化計画」になりつつあるのですよ(笑)