宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
-
大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
ジャニーズ事務所問題と虐待防止
9月7日、ジャニーズ事務所は一連の性加害問題に係る記者会見を開きました。半世紀以上にわたって繰り返された性犯罪の深刻な事実に対して、会見で明らかにした事務所の対応は欺瞞に満ちています。
「ジャニーズ事務所関係者の常識は、世間の犯罪・非常識」というほかありません。
性犯罪の隠蔽構造は、ジャニーズ事務所の同族支配、芸能界の歪んだ体質、真実を伝えないマスコミ、被害届を受理しない警察などで構成されていました。一部報道によると、警察による事件化を阻むことになった要因は、事務所の背後に大物政治家がいたからだという情報まであるようです(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/328796)。
このような性犯罪の発生と隠蔽構造は、先週のブログで指摘した精神科病院における虐待発生の問題構造と実に似ています。反社会的集団と通底する組織的特質があるといっていい(https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202309/0016764820.shtml)。「組長」の影響力の排除と、これまでの組織文化の抜本的刷新が問われる点で共通しています。
隠蔽の仕組みとなった多重構造は、社会的・組織的な城塞です。この忌まわしい開かずの門を開くきっかけは、イギリスの公共放送BBCの番組でした。
BBCで番組を制作したモビーン・アザー記者は、ジャニーズ事務所の会見内容は「不十分」で、「全面的な立て直し」の必要性を改めて訴えています(9月9日朝日新聞朝刊)。
アザー記者の指摘は、概ね次の通りです。
まず、藤島ジュリー景子氏が100%株主のままで、事務所の企業文化の代表格ともいえる東山紀之氏が後任の社長に据わるのであるから、同族支配が維持され、組織の文化的刷新は期待できない。解体的出直しとはとても言えない。
次に、被害者補償に何ら具体性がない。
第三に、ジャニーズ事務所という名称を変えないことは、被害者にとって「極めて侮辱的」であり、抜本的な立て直しの「出発点」は事務所名の変更でなければならない。
第四に、藤島氏は性犯罪の事実を直視してアクションを起こす機会が幾度もあったはずだか、何もしなかった。BBCの取材も拒否し続けてきた。今回の記者会見でも、事務所の「権力者」である藤島氏が説明責任を果たしておらず、この点は日本のメディアが問題を追究し続けるべきだ。
最後に、イギリスにおける「ジミー・サビル事件」を教訓として引き合いに出し、強制力を持った警察が捜査を徹底するべきだと指摘しています。
アザー記者の指摘はまことに的を射ています。これに対して、日本のマスコミが、とりわけテレビが、真実を伝えてこなかった事実は、テレビ報道が「ジャーナリズム風芸能番組」に堕していることを端的に示しています。
さて、ジャニーズ事務所の記者会見の欺瞞は、精神科病院の虐待が刑事事件にまで発展した神出病院の「出直し体制」の発表と、驚くほど似ています。そこで、ジャニーズ事務所の問題構造から、施設従事者等による障害者虐待(病院・学校・保育所を含む)への対応と防止に資する教訓を明らかにしておきましょう。
まず、法人の同族経営による支配は、虐待の隠蔽構造に転化しやすいという問題点です。同族支配の法人の施設・事業所で発生した虐待事案に私が関与した範囲では、虐待防止に資する組織の抜本的改善を実現した法人は一つもありません。その場しのぎでお仕舞。
虐待防止にふさわしい組織体制の改善は図られないため、その後も虐待事案が繰り返し発生します。同族支配の組織の中には、虐待を隠蔽するための知見と体制づくりに力を入れるところさえあります。
法人組織が同族支配にある場合、監査の項目と基準を一段と厳しくし、国税当局との連携を含めた抜き打ち検査を実施する仕組みにするべきです。理事会と評議員会が本来の役割を果たしているのか、お金の流れに不透明な点はないか等については、徹底した監査が必要です。虐待防止に資する組織の文化的刷新を図るためには、強制力をもった介入が必要だからです。
次に、法人・施設等の管理者が果たすべき、虐待事案に係わる説明責任の明確化です。
ジャニーズ事務所の新旧社長と関連会社の社長は、口をそろえて「噂はあったが、積極的に知ろうとしなかった」「触れてはならない空気があった」などと釈明しています。しかし、1990年代の後半には、告発本やビデオが出され、ジャニー喜多川本人が裁判の中で性加害を認める証言をしており、2003年の判決では性加害の事実が認定されています。
会見に登場した3人は、「自身は当事者ではなく、具体的には知らなかった」ということでぎりぎりの免罪符を得ており、新体制の中枢に据わる資格があると考えているのではないでしょうか。
被害者が少なくとも数百人に及ぶ重大な性犯罪が発生している組織の内部で、「傍観者」であり続けた事実に対する説明責任をまったく果たしていません。
これと同様に、施設や病院で発生した虐待事案について、必要十分な説明責任を果たす管理者はほとんど見当たりません。
神奈川県立中井やまゆり園の園長が、居室への施錠監禁による身体拘束を長期的に継続してきた理由を「人権と安全を天秤にかけて安全を優先した」と言うのは、悪戯をした子どもの言いぐさ程度で、管理者としての説明責任を果たすことにはほど遠い。
第三に、虐待事案に係わる被害者の補償問題が有耶無耶にされ続けている問題です。中井やまゆり園で虐待被害に会った利用者に対して、具体的な補償はあったのでしょうか。警察に被害届を出せば、刑事犯罪になるおそれのある虐待事案ですから、客観的には、国賠案件になる可能性があったはずです。
第四に、施設従事者等による障害者虐待にかかわるマスコミの報道は、著しく表面的です。BBCのような人権擁護の定見から構造的問題に迫ろうとする報道姿勢は、わが国の自称「公共放送」のテレビ局には希薄です。
さらに、施設従事者等による障害者虐待への対応において、今後の虐待防止に資する必要十分な真相の解明がなかなか行われないことです。行政が法人に「第三者委員会」を設置させる場合でも、形式的な「丸投げ」に過ぎない「委員会」も決して珍しくありません。
施設従事者等による障害者虐待については、国のマニュアルの指摘にあるように刑事犯罪の可能性があるため、必要に応じて、強制力のある警察が徹底した事実解明を図る仕組みを体制整備すべき時期に来ているのではないでしょうか。
最後に、ジャニーズ事務所を舞台にした性犯罪の特異性について触れておきたいと思います。
先日の事務所の会見で著しい違和感を抱いた点は、ジャニー喜多川による性犯罪の発生と事務所の芸能ビジネスのあり方を機械的に区別しているところです。名所変更をしない理由についても、「自分たちが培ってきた文化」があるという自負心を提示しました。
しかし、ジャニーズ事務所は性犯罪と一体化した芸能ビジネスの組織です。ジャニー喜多川が性犯罪を続けるための芸能企業であるからこそ、性加害の事実を隠ぺいするための徹底した同族支配が行われていたのです。
このような事務所に関するトータルな理解の欠如は、「自分たちは性犯罪の噂は知っていたが、事実は知らなかった」という「傍観者」の立場を分水嶺に、性加害の事実と芸能ビジネスを区別する流れを議論の出発点にする仕掛けになっています。
性加害と芸能ビジネスの機械的峻別は、ジャニーズ事務所の名称を存続させる主張と組織文化の正当化に通じるとみていい。このような企業は、一度解体しない限り、文化的刷新を図ることはできないでしょう。
これと同様に、同族支配の社会福祉法人や医療法人等で発生した障害者虐待について、重症度が高い、真相が明らかにされない、虐待が繰り返し発生する場合には、利用者に対する不利益が発生しない形での「解散命令」や「事業譲渡」の積極的活用が必要です。
時間雨量40mmの雨
ブログ画像は実際の画像よりも解像度が下がるため、アップした画像では雨筋が見えないかも知れません。原画では、雨筋がくっきり見えます。
この夏の晴天は、まるでサウナ風呂に入っているような蒸し暑さを強いられました。にわか雨が降っても、一息つける空気に代わることもまったくありません。にわか雨は、サウナ風呂がロウリュ・タイムになるだけです。本当に秋が恋しい。