宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。
- プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)
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大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。
何らかのアドバンテージを
明けましておめでとうございます。皆さん、本年もどうかよろしくお願いします。
さて、実に慌ただしい年末年始となりました。クリスマス前にはさいたま市岩槻区の「顔の見えるネットワーク」会議があり、大晦日を目前にしてさいたま市虐待防止研修の資料が電子ファイルで届いたために、正月を挟んでその研修準備に追われるといった按配です(いささか恨み節…)。そして、この間のニュース報道の中では、新年度予算と絡んで介護・障害者福祉における事業者報酬の削減と求人難に注目せざるを得ませんでした。
1月5日付の朝日新聞朝刊は、東京の特別養護老人ホームの半数が「職員定数割れ」で求人難が深刻であることを紙面トップで伝えました。介護・福祉とは異なる他の業種での求人が増え、給与水準も上がってきているために、介護職離れが進み求人を出しても埋めることができないと言います。
同記事によると、勤続6~7年の常勤職員で年収450万円くらいとなるある社会福祉法人の特別養護老人ホームは、職員が辞めていくのを引き留めることができないといいます。「この特養をやめた職員の半数近くは、電気設備会社の営業や小売店の販売など介護と関係のない仕事に転職した」とあります。常勤ですらこのようなありさまなのですから、パートに至っては「この2年間補充できない」なんて当たり前の状態になっています。
介護職の有効求人倍率は、東京4.34、愛知3.96、岐阜3.50、千葉3.04と都市部とその周辺で深刻さがとくに増しており、全職業平均の有効求人倍率が1.02であるのに対して、介護職全国平均で2.42と高止まりしています。そして、特養の入居停止、ショートステイの停・廃止、デイサービスの廃業が全国で広がり、結局はサービスを必要とするお年寄りにしわ寄せがいくのです。
財務省の試算によれば、特養1施設あたり3億円を超える「内部留保」があるから、介護職員の給料を上げることができるという一方で、都市部の社会福祉法人は物価も高く内部留保が少ないため介護報酬が増えない限り介護職員の給料を上げることはできないといいます。
こうして、施設で働く職員の待遇改善については、国・自治体・事業者のいずれも責任のなすりつけ合いをしているだけで、真実の問題がどこにあって、どのような手立てを具体的に講じるのかはさっぱり見えてこないのです。
施設職員や介護職員の待遇改善とリンクさせた「キャリアパス」の様々なモデルも、支援現場の職員確保のための決め手にはなっていないようです。ある地域では、離職とは別の話を耳にしました。「施設長には絶対にならない」「管理職にも絶対につかない」という職員が増えて、事業所が成り立たなくなっているとのことでした。さほど待遇が上がるわけでもないのに、責任と負担だけが重くなるのは到底割に合わないというのです。
建設職人であれば、公共事業が増えて建設現場の職員不足が深刻となれば人件費があがります。しかし、介護・福祉の業界はそのような仕組みとはなっていないのですから、実効的な施策が展開されない限り、介護・福祉職員の離職に歯止めはかからないでしょう。
北欧諸国では、介護職の資格はなく、原則として現任訓練によって仕事に就いています。他の業種に比べて賃金が高いわけではありませんが、「仕事に追われる」「残業が多い」「人が辞めたら夜勤が増える」「子育てと仕事の両立ができない」などという日本における介護・福祉の従事者にとってはオン・パレードとなる悩みの種は、全くないといっていいでしょう。
つまり、介護・福祉領域の人材確保のために議論しなければならない課題は、この業界の仕事がディーセントワークであるかどうかということに尽きるのではないでしょうか。 それは、「月給をあげる」ためだけの狭い課題ではありません。
人に役立つ仕事ではある点にだけ旗を掲げるのではなく、介護・福祉の業種ならではの職業文化の奥行やワークライフバランスの安定性など、月給にとどまることのない職業生活上のアドバンテージの創造を課題にすべきなのではないでしょうか。何といっても、介護・福祉の働く手は、地域と生活文化を創造する担い手なのですから。