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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

子ども自身が権利を行使するための書


 とても有意義で、前向きな新刊書が出ました。谷口真由美・荻上チキ著『きみの人生はきみのもの―子どもが知っておきたい「権利」の話』(NHK出版、2023年)です。

 この書物は、日本国憲法と子どもの権利条約にもとづき、「子どもたちの24個の悩みやこまった状況」から、子ども自身がどのように行動すればいいのか、助けをどこに求めればいいのかについて、具体的に、とても分かりやすく著しています。

 子どもが生きるために自らの権利を「使う」ための「道具にしてもらえるように願って」作られた書物です(同書2-6頁、「はじめに」)。

 目次を紹介します(なお、同書は漢字のすべてにひらがなのルビをふっています)。

はじめに―きみたちは権利をもっている

1 自由に意見を行ったり、社会を変えたりする権利

  • ・親の言うことは、何でも聞かないといけないの?
  • ・親が勝手に部屋に入ったり、スマホやケータイを見たりする
  • ・学校のルールや校則を変えたい!
  • ・学校が教えてくれないことを、もっと知りたい
  • ・グレタみたいにデモをしたい!
  • ・家に居場所がない

2 心と体を守る権利

  • ・いじめにあっていて、学校に行きたくない
  • ・SNSでいやがらせを受けていて、つらい
  • ・毎日よく眠れない・すぐお腹が痛くなる
  • ・SNSやゲームを、やめたいのにやめられない
  • ・自分の性別に違和感がある
  • ・親・友人・先生から体をさわられたり、性的なことを要求されたりする
  • ・ごはんをちゃんと食べさせてもらえない
  • ・親から大切にされていないと感じる
  • ・親のしつけが理不尽
  • ・家族の世話や介護をしていて、とてもたいへん
  • ・恋人ができるまでに知っておきたいこと

3 お金を守る・お金をもらえる権利

  • ・親にお年玉をとられた
  • ・貸したゲームが返ってこない
  • ・お金がなくて、高校・大学に通えない
  • ・お金がなくても、生きていけるの?
  • ・いつか働くときまでに知っておきたいこと

 本書の冒頭にある「親の言うことは、なんでも聞かないといけないの?」では、議論の出発点にふさわしく、子どもの「自己決定権」を明らかにしています。

 親には指導する権利がありますが、理不尽な命令やしつけに対して聞く必要はなく、小さいルールについても、納得がいかないならば理由を尋ね、親の説明が不当だと思ったら、「親に『こういう理由があるから、家の規則を変えることを認めてほしい』とうったえてみることだってできる」(同書15頁)とまことに明快です。

 もちろん、親の言うことにただ反発すればいいと説いている訳ではありません。親の言うことのうちで、「聞く必要があること」と「聞く必要がないこと」を見分けるための二点を解説しています(同書17頁)。

/1/ 言っている内容
 きみがよりよく成長することを考えてくれているかどうか
/2/ 内容の伝え方
 根拠や理由を示した話し合いがあるのかどうか

 このように、子ども自身が権利を行使する起点を「子どもの自己決定権」に据え、さらに、この「子どもの自己決定権」を貫いて多様な子どもの悩みに子ども自身が対処するための考え方と方法が綴られていくのです。

 本書は、すべての子どもたちにとってとても有意義な本ですが、とくに、社会的養護を受ける子どもたち(乳児院・児童養護施設で暮らす子どもたち、里親と一緒に暮らす子どもたち)や、障害のある子どもたちに本書の内容を伝えていくことには、はかり知れない意義があると感じました。

 子どもの福祉領域の支援者の皆さんには、本書の「親」を施設職員やワーカー、「学校」を「施設」「保育所」「学童保育」「放課後デイサービス」に変換しながら、子どもたちそれぞれの立ち位置にふさわしい悩みに響くリアリズムを活かして伝えていただきたいと思います。

 「子どもの権利」は、障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもが共有する権利です。障害のある子どもたちの教育と福祉に携わる人たちには、障害者虐待防止法と障害者差別解消法に係わる障害のある人の権利を含めての、本書の活用を考慮すれば、なお一層有意義な取り組みに発展させることができると思います。

 わが国の子どもの権利条約の批准は1994年、障害者権利条約は2014年の批准です。来年は、子どもの権利条約の批准から30周年、障害者権利条約は10周年を迎えます。この節目に向けて、子どもたちや障害のある人がそれぞれの権利を自ら行使できるよう具体的な筋道を提示していくことはとても大切な営みです。

 また、高齢者やDV被害者などを含め、福祉領域等のクライエントが自らの権利を行使するための、本書のような企画を実現できればすばらしいと思います。

 残念な話ですが、障害児者支援の施設・事業所や、障害者支援に関連する業界団体が、障害のある人自身が権利を行使できるようになるための説明会や学習会を開催したという話を、少なくとも私はほとんど知りません(ただし、当事者団体には開催したところがあります)。

 滝乃川学園が、選挙権の行使についての取り組みを重ねていることは中央法規出版の『医療福祉相談ガイド』に示しています。しかし、日常生活の多様な悩みや困難に係る権利の使い方についての取り組みは、著しく遅れていると考えます。

 障害のある人の場合は、AAC(拡張・代替コミュニケーション)の活用方途を含めた権利の行使の具体化が必要ですから、模索途上の課題もあるでしょう。

 しかし、昨年の9月9日、国連・障害者権利委員会は、わが国の現状に対して厳しい勧告を出しました。この勧告を正視し、障害のある人自身が「自己決定権」を行使することを保障することはわが国の急務です。

 すべての人たちが自ら権利を行使できるまでの広がりを展望しつつ、本書を一読されることを強くお薦めします。

コペンハーゲン・プライド

 わが国の政治の中枢では、LGBTQに係わる時代錯誤な無理解と差別が未だに跋扈しています。世界の国の中でも民衆の幸福度が高いデンマークでは、1996年のユーロ・プライドからLGBTQの祭典がはじまり、現在はコペンハーゲン・プライトとしてデンマーク最大級のイベントに発展しました(https://genxy-net.com/post_theme04/gauchan20/)。私は、日本がデンマークのように、民衆が幸せになることのできる方向で「社会が変わる」ことを願っています。