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「そんなこと」でも、俺には「大事なこと」なんだ!
 ~がんになってわかった「介護される人」の気持ち~

松崎 匡(まつざき ただし)

現場経験を活かして専門学校で教鞭をとっていた最中に「がん宣告」を受けた松崎さん。
「利用者のため」をモットーに介護にあたってきたつもりが、利用者の立場になってはじめて気付くいろんなこと…。
がんと絶賛同居中(?)の松崎さんのアツい思いをお届けします。

プロフィール松崎 匡(まつざき ただし)

2014年4月より「合同会社M&Yファクトリー」代表社員。
元アルファ医療福祉専門学校教務主任。福祉関連事業所の開業、業務改善などのコンサルティング、研修講師、市民向けの介護講座などのほか、青少年の更生、フリーター、ニートの就職支援などを手掛ける新たな福祉への関わりを中心に活動中!

第8回 生活をしている実感が欲しい・・・

 病院や施設に入院、入所すると、今までの生活に比べてかなりの激変を受け入れなければなりません。僕自身の経験で言わせてもらえば、まず就寝時間がいきなり夜の9時に激変します。食事も普段は口にしないようなものが出てきて違和感だらけ。そして何と言っても「やることがない」という生活の激変が起こります。

 「やることがない」と感じてしまうと僕のQOLに大きな影響を及ぼします。

 非常にマイナス思考に陥りやすくなり、「何かしなければ」が次第に「何もできねえし、ちっ!」と、心が荒んでいくのです。こう思うのは僕だけなのかな? と孤独に思っていたのですが、同じ境遇にある患者さんの毎日の行動を観察してみると、実は僕と同じような心模様の方人が多いのかな? と思えるような場面に出くわしたりします。

自分で買い物をするのは、自立生活の重要な要素?

 手術やきつい治療をした後は、まずは回復を優先します。

 というか全く体が動かないので、おとなしく「病院の日常生活」を受け入れているのですが、やがて回復してくると「やることがない」状態になってきます。

 しかし、人間というものは自分が生きる環境のなかで、できる限りの自己実現を図ろうとするのですね。いわゆる「普通」の環境にないなかで、少しでも自分の生活に近づけるための行動が始まるのです。

 たとえば…

 僕のいる病院ではコンビニが24時間営業しています。

 このコンビニに「自分の力で行って、買い物をする」という行動によって自分の回復を実感できる、と思って買い物をする人が一杯います。僕自身も、ベッドから動けないときは看護師さんに買い物を頼んでいたのですが、「楽だから」とそのまま看護師さんに買い物を頼み続けることに決して満足しないのです。

 やはり「自分で」選んでお金を払って、自分で部屋まで持ち帰ることが大切で、人に任せて「楽でいいな」とは決して思わないんですよね。

 コンビニで買い物をするなんて簡単なこと。

 だけど、制限された生活環境において、わずかな楽しみとして買い物を「自分で」することの達成感や満足感は、大げさではなく格別のものがあり、何度も死にかける経験をしていると「今回もこうして自分で買い物ができるまで回復したか・・・」と感慨にふける僕なのでした。

 おかげで毎日何回もコンビニに行くのですが(汗)

 他の人も同じように感じているのかはわかりませんが、僕と同じように朝の5時半には新聞とコーヒーを求めて何人もの患者さんがコンビニに来店しています。

 そして、昼間はやることがないからと、特に食べたいわけでもないお菓子を購入し、退院時に「松崎君、よかったら食べて」と大量のお菓子を置いていってくれる入院仲間などを何人もみてきました。

 またまた小さなことかもしれませんが・・・

 介護施設の利用者さんも同じように「限られた日常生活」を受け入れて毎日生活されていることと思います。

 我々が提供している生活場面のなかで、利用者さんが「もっと」日常生活を楽しめるように「自分の力で」できることを提供していく。そういう考えを常に頭に置いて行動してもらえればと思います。

リハビリでかつての勤め先の新宿まできました。