梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
虐待の防止に最も適した人材とは
楽観視はできません
12月10日、改正精神保健福祉法が可決・成立し、精神病院には職員への研修や患者からの相談に応じる体制整備が義務づけられました。また、虐待を受けたとみられる患者を発見した際には都道府県などに通報することも義務化され、都道府県は通報等の状況を公表、国は実態調査を行うことになります。
そして、通報した職員が解雇等の不利益な取り扱いを受けないことが明示され、従事者による高齢者や障害者の虐待同様の対策が盛り込まれました。精神病院の職員による虐待については、以前から一定数発生していると考えられてきただけに、虐待防止への第一歩になると期待されます。
しかし手放しでは喜べません。12月23日に公表された調査結果によれば、令和3年度の従事者による高齢者虐待の件数は789件と前年度比で24.2%増えて過去最多となり、潜在的な虐待件数(暗数)も随分増えたであろうと考えられるからです。法施行後16年間も取り組んできた結果がこれですから、精神病院の今後についても楽観視はできません。
いずれにせよ、増え続けているところをみると、私たちは、何か大切なことを見落としているのかもしれません。私は、ある医師から聞いた話を思い出します。「患者は苦しむだけでありまた希望もしていないのに、社長である患者に死なれると困る人々が望めば、延命措置をせざるを得ず、非常に辛い」というお話です。
私たちは大切な何かを見落としている?
私は、すぐに「明らかに患者は被虐状態にある」と思いました。しかし、法律ができていろいろと対策もされるようになると、私たちはその枠内でしかものをみなくなるようです。事実、「医療ネグレクト」はお馴染みの虐待行為で、対応のガイドラインもあるのに、「延命措置」は正直想定外でした。
まさに意思決定支援チームの出番なのでしょうが、大切なことを見落とし易いことについては、他にも気になる事例があります。たとえば「ゴミ屋敷」の住人への支援や、万引きを繰り返す障害者への支援です。いずれも一定の支援効果はあるのですが、大抵は暫くするとまた元の状態に戻ってしまいます。
依存症の患者などには入退院を繰り返す方が多く「回転ドア現象」と呼ばれますが、同様の状態です。入院治療で病状が良くなり退院するものの、自宅に戻ると受診・服薬を中断し、再び入院治療を要するほど悪くなる。その繰り返しです。見ようによっては、支援者が問題を維持するシステムの一部になっているわけです。
ここはひとつ、大胆な発想の転換が必要かもしれません。たとえば、依存症の回復者には他の依存者の支援にあたっている人が少なくありません。そこで、「支援される人」ではなく「支援者」としての側面の強化を試みたい気がします。来年は「虐待の防止に最も適しているのは虐待者とその予備軍」、そう言える道を見つけたいと思います。
それでは皆様、良いお年をお迎え下さいませ。
私「虐待防止の新たな道を!」
妻「そんなことより大掃除!!」