梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
従事者による高齢者虐待の事例検討(その2)
前回からの続きです。
事例 Part6
羽交い締めで、目の周りに青あざができるはずもないのですが、高齢者の方が先に手を出してきたのに対抗しただけだ、と言い訳したそうです。
厳重注意をして、そのときは終わってしまいました。
検討ポイント(例)
⑧青あざに合理的な説明ができないのに、傷害の蓋然性を疑わないのか?
⑨厳重注意だけで再発が防げると本当に考えているのか?
⑩当該職員への教育・研修プログラムは実施しないのか?
⑪通報に確証は不要なのに、虐待の相談・通報はしないのか?
⑫事件性も疑われるのに、警察に相談・通報はしないのか?
事例Part7
しかし、一週間もしないうちに今度は別の入居者が、朝の寝衣交換の際、足を骨折していることがわかりました。お尻にも打撲痕が残っていたそうです。ベッドに寝ていてそうなる訳もありませんので、またその夜勤者に話を聞いたところ、夜中に見回りをしていたらその利用者がベッドに這い上がろうとしたので、そのまま手伝って布団の中にいれ、また歩き回るといけないと思って柵をつけたそうです。自分でベッドから降りて上がれなくなったと思ったので怪我をしているとは思いもよらなかったと答えたそうです。
検討ポイント(例)
⑬転落を疑って然るべき状態なのに、利用者の身体状況は確認しないのか?
事例Part8
ところが、トイレで利用者の靴がみつかり、居室でベッドから転落したのではない可能性も出てきました。しかし、夜勤者以外誰も現場を見ていないため、真相究明はうやむやになってしまいました。この件は、骨折をしていることもあり、病院受診させ、家族にも説明せねばならなかったのですが、施設長は夜勤者の責任は問わず処置したようです。
検討ポイント(例)
⑭転落の可能性が低くなったのに、調査を継続しないのか?
⑮虐待行為の疑いが濃くなったのに、夜勤者を不問に付したのか?
⑯ここでも改めて、虐待の相談・通報はしないのか?
⑰ここでも改めて、警察に相談・通報はしないのか?
事例Part9
施設としては、男性の認知症高齢者が多いフロアで夜勤をしてもらえる人は少ないため、辞めさせることに躊躇するようです。しかし、現実にけが人も出てきているなか、このまま ではまた何が起きるかわからないという不安も強いです。
検討ポイント(例)
⑱事件化しても不思議ではないのに、なせ辞職等を求めないのか?
さて、以上で検討ポイントは18となりましたが、いろいろと課題が見えてきそうです。そこで、課題についてどうしていくか、考えることになりますが、虐待防止の指針に求められている以下の9つに分けて、考えてみると整理しやすくなります。
イ 虐待防止に関する基本的考え方
ロ 虐待防止検討委員会とその他事業所内の組織
ハ 虐待防止のため職員研修
ニ 虐待等が発生した場合の対応方法では、
ホ 虐待等が発生した場合の相談・報告体制
ヘ 成年後見制度の利用支援
ト 虐待等に係る苦情解決方法
チ 利用者等に対する当該指針の閲覧
リ その他虐待の防止の推進のために必要な事項
次回は、まとめとして検討例をご紹介します。