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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

スーパーバイザー様々

世界高齢者虐待啓発デーに何を思う

 私の関心は虐待問題全般に及ぶため、児童や障害者の虐待についてもいろいろ書いてきました。しかし、最も得意にしているのは高齢者虐待の防止です。ちょうど、6月15日は国連が定めた「世界高齢者虐待啓発デー」であったこともあり、今回は高齢者虐待をテーマにしました。

 気になるのは、虐待防止法の施行後16年を経てもなお、事例対応を敬遠する傾向があると聞くことがあることです。地域包括支援センターのような相談の専門機関ですら敬遠し、「虐待は行政マターだから、情報だけ伝えれば良い」とする所もあるそうです。

 確かに、虐待防止法施行当時は、「虐待事例に関わる暇などない」と関わりを拒否する所もありましたから驚くにはあたりませんが、困ったことではあります。一体どうしてこういうことになるのでしょうか。

渡る世間は意に染まないことばかり

 実は私には、思い当たるところがあります。それは、学校教育で教えられることと、現場の実践で求められることには隔たりがあり、就職すると迷い易いという点です。したがって、なかには、安易な道に進んだり辞めたりと、不安定化する者も出てきます。

 たとえば社会福祉士なら、学校教育では「現在の社会システムでは解消できない問題に真っ先に取り組みましょう」などと教えます。ですから学生は、「先進的な社会問題に取り組むぞ!」と張り切って就職していくことになります。

 しかし、いざ就職してみると、制度や組織的な制約などから、意に染まない仕事に忙殺されたりします。そして、大抵は、上手くバランスを取れるように、自分自身で頑張って、何年間もかけて折り合いをつけていきます。

救世主の名はスーパーバイザー

 そのため、「自分で折り合いをつけるのは当たり前。それができないのは自分が悪い」とされることも少なくありません。しかし、バランスが上手く取れない人々への支援を欠くとしたら、人を育てられない組織となるのに等しくはないでしょうか。

 ですから私は、従事者の現任教育に注目して、スーパーバイザーの必要性を強調するようにしています。実際私は、スーパービジョンの半分くらいは、職場の愚痴をこぼしていましたし、スーパーバイザー不在なら、とうの昔に仕事を辞めていました。

 そのなかで、まずはインテークから終結まで、とにかく1事例でも良いから経験すること、そして次は、簡単だと思う事例から、とても無理だと思う事例まで、失敗を恐れずに取り組むように導かれました。今にして思えば、この導きが良かったのだと思います。

 おかげさまで、簡単だと思った事例がことのほか上手くいかず、とても無理だと思った事例があっけなく解決する、そんな経験を数多く積むことができて、本当に良い学びになりました。この学びがなければ、今頃は途方もないボンクラになっていたと思います。

「滝行で迷いを払拭ですか?」
「うちの職場SVいないから…」