梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
虐待防止の担当者は竹のように
真っすぐで丈夫でしなやか
日本人には、「転居するときには竹を持っていく」と言われるほど、竹とともに暮らしてきた歴史があります。ですから、人の暮らした直接的な痕跡はなくても「この辺には竹があるからきっと以前は人が住んでいた筈だ」と察しがつくといいます。そんな話を聞いて、自身の竹にまつわるエピソードを思い出しました。
農家だった祖父の家の裏庭には、何本もの竹が植えてありました。そして、祖父は「竹は根を大変複雑に、また深く張り巡らせる。だから地震が来たらそこに逃げ込めば大丈夫だ」と言っていました。また、竹は真っすぐ縦に割りやすく、非常に丈夫でしなやかな素材なので、実に多用途です。
カゴやザルやヘラを作ったり、ホウキや畑の支柱や釣り竿にしたり、竹筒にご飯を入れて炊いたり、最近では、その繊維の特性や温度変化への耐性などから、衣服の素材や人工衛星の部品にまで使われるそうです。まさに万能選手ですが、竹について考えるうちに、ある考えが浮かんできました。
それは、最近義務化された高齢者や障害者の福祉サービスの虐待防止の担当者に求められるのは、竹と同じような資質ではないのか、というアイデアです。第1には、虐待防止という目的に対して、しっかりと根をはって揺るぎなく(全員参加を促して)、真っすぐで丈夫でしなやかに取り組めることです。
キング・オブ・従事者
第2には、虐待の一次予防、二次予防、三次予防のために、多くのことに目配り気配りできるという点です。定期開催される虐待防止検討委員会を軸に、虐待防止の指針を整備したり、従事者研修を行ったりしますが、虐待防止の指針だけでも何項目もありますから、まさに多用途に耐えうる万能選手でないと務まりません。
まずは、「虐待防止に関する基本的考え方」、「虐待防止検討委員会とその他事業所内の組織」、「虐待防止のための職員研修、虐待等が発生した場合の対応方法」、「虐待等が発生した場合の相談・報告体制」を整える必要があります。そして、いずれも具体的で実効性のあることが求められます。
さらに、「成年後見制度の利用支援」、「虐待等に係る苦情解決方法」、「利用者等に対する当該指針の閲覧」、「その他の必要な事項」などもカバーしなければなりません。ですから、陸上競技の全要素を詰め込んだ十種競技の優勝者を「キング・オブ・アスリート」と呼ぶように、担当者を「キング・オブ・従事者」と呼びたくなります。
もっとも、優勝までには数多の障害が行く手を阻むことでしょう。しかし、押してもだめなら引いてみる程度の工夫にとどまるのではなく、「押し引きの方向には、斜め前も斜め後も、真上も真下も、斜め上も斜め下もある」くらいのしなやかさで、虐待防止を強力に推進していって欲しいと思います。期待を込めて心よりエールを送ります。
「おおっ!担当者に適任!!」
「いずれ月に帰りますけど…」