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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

支援者の「明日はどっちだ!」

虐待防止に新時代到来?

 厚生労働省は、児童虐待に対応する専門職の資質を高めるために、新たな資格制度を創設する方針です。4年以上の実務経験を持つ児童福祉司や2年以上の経験のある社会福祉士か精神保健福祉士が対象で、100時間程度の研修を経て、認定試験を受けて資格を取得するといいます。

 虐待の件数が増加の一途を辿り、待ったなしの状況下なので、民間の認定試験を先行させ、新資格導入後2年を目途に国家資格化するか検討するようです。以前から対応する現任者には経験の少ない人が多いと指摘されてきましたから、虐待防止の戦力としてかかる期待は小さくありません。

 一方、従事者による虐待に関しては、このブログでも取り上げたように、障害者や高齢者を支援する事業者や施設には、虐待防止検討委員会の定期開催、虐待防止の指針の整備、従業者への研修、専任担当者の設置などが義務づけられており、こちらの効果にも期待は高まります。

虐待のことは何も聞かないで下さい?

 こうした新たな動きは、虐待防止にそれなりにインパクトを与えると思います。しかし、「虐待防止に新時代到来」と言うほどまでには至らない気もします。というのも、虐待問題には、知れば知るほど、自分が如何に虐待について知らないか、思い知らせるような奥深さがあるからです。

 私自身、虐待防止に取り組んで十数年たった頃には、「虐待のことなら何でも聞いて下さい!」と胸をはっていました。ところが、奥深さを知るにつれ「虐待のことは何も聞かないで下さい」という心境に変化してきました。「こども家庭庁」の名称に関する議論は、この奥深さをよく示しています。

 家庭での子育て支援は、子どもの健全育成に不可欠であるなどの理由により「家庭」が加えられたようですが、この意見に強く反発する人々もいます。確かに「家庭」は、心底「親は悪魔」で「家庭は地獄」だと思う経験者や、伝統的家族観の押しつけを問題視する向きもありますから、当然かもしれません。

「三叉路の道はどっちだ!」

 私には、この名称問題が、養護(保護)者による虐待事例で、支援者が「家族の再統合」に拘りやすい問題と、同根だと思えます。支援はとかく「まるく収める」ことに偏りやすい点です。家族の再統合は選択肢の一つに過ぎず、家族を解体するという選択肢もあるにもかかわらず、です。

 本来支援者は、被虐待者と虐待者を長期に分離するか、一旦分離した後再統合を図るか、分離せずに支援を続けるかという、解決の三叉路で最善の道を判断します。被虐待者の最善の利益を考えて選べば良いので簡単そうに思えますが、実は、ちょっとした落とし穴があります。

 それは、自分の力量次第で行ける道が決まるところがあることです。力量が高ければ分離しない道に進めますが、低いと長期分離の道を行くしかない、といった按配です。何だか、自分の力量を厳しく問われるようで怖い気もします。もっとも、力量をあげるべく努力を続けるしか道はないのですから、話はシンプルではあります。

「あいつめ、帰ったら殴ってやる!」
「楽な道だとは言っていません…」