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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

私の目標はユーミン!?

まさか、あのAppleが!

 世界的なIT企業であるAppleは今秋、基本ソフト(OS)「iOS15」の発表と同時に、児童虐待に関する画像検知機能を導入する予定だそうです。同社の運営する「iCloud(アイクラウド)というクラウドストレージ(インターネット上に設置されたデータを格納するためのスペース)にアップロードされた画像を解析するのだといいます。

 これに対して、誤検知やそれを狙った攻撃の問題、児童性的虐待画像以外の画像やテキスト(文章など)への対象拡大の問題、独裁政権などが圧力をかけて悪用する問題など、さまざまな懸念や批判が相次いでいるともいいます。

 私は、技術的なことに詳しくありませんから、表明された懸念や批判に何らコメントすることは出来ません。しかし、虐待問題に世界的IT企業が絡んでくるとは夢にも思いませんでした。このニュースの見出しに、はじめは「Appleの偉い人が児童虐待をしたのか?」と早合点したくらいです。

情報通信技術導入の光と影

 私はこれまで、虐待の防止への情報通信技術の活用については、かなり肯定的に捉えてきました。そして、新型コロナ禍が功を奏したのか、リモート会議による事例検討や研修もあっさりと実現されてしまいましたし、スマートフォンやタブレットPCの機能向上と普及によって、記録にまつわる環境は格段に良くなりました。

 しかし一方で、Apple同様ビッグ・テックの1つであるGoogleがかつて、インフルエンザの流行予測を試みて失敗したことを思い出しもします。米国疾病管理センターが丹念に調べた実際の数値と、Googleお得意の検索語のデータの関連に着目し、検索語のデータを用いて実際の流行を予測しようとしたのですが、上手くいかなかったわけです。

 これらのエピソードからすると、虐待を含む健康問題に対する取り組みに情報通信技術を活用するのは、そんなに簡単ではないようです。Appleの事例もGoogleの事例も、非常に先進的かつ独創的な試みではあるものの、前者では新たな問題を生じさせる可能性を否定できませんし、後者はまったく役に立たなかったのですから。

目指すはまさかのユーミン!?

 もっとも、いずれも、古くからある知識・技術と、画像解析と予測の新しい知識・技術をビッグデータでつなぎ、新たな地平を開こうとしている点は、大いに評価できると思います。虐待問題にもこの精神で臨みたいものですが、先進的かつ独創的な試みであればあるほど、実は、誰もが親しみやすく誰もが使えることが大切になるのではないか、という気もします。

 そういえば、音楽家の松任谷由実氏は、作曲するにあたり、誰もが親しみやすく誰ものが口ずさめることを心がけているそうです。だとすれば「毎度お馴染みの」的な古さは残りそうなものですが、そこはさすがユーミン、楽曲は常に進化し続けています。私も是非あやかりたいものです。

「後任の方、本当に大丈夫?」
「私よりはるかに優秀です!」