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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

好きこそものの上手なれ

 以前、明治神宮の森を造った人々は、樹木の100年先の成長を見通していたことをご紹介しました。「では、樹木がどう進化するかも見通せるだろうか」と、門外漢の浅知恵を巡らしたのですが、自然の摂理は「やってみなはれ」精神にあるから、見通すのは難しいと思い至りました。

 「やってみなはれ」は、経営の神様・松下幸之助氏やサントリー創業者・鳥井信治郎氏の言葉として有名ですが、その精神は「為せば成る、為さねば成らぬ何事も…」にあります。そして生物は、海や陸や空を舞台に日々この精神を、自覚的にも無自覚的にも体現し続けて、千差万別の進化の系統樹や個体差を形作る、というわけです。

 それなのに、私たちは適者生存ばかり気にするようです。滅びるものと生き残るものの共同作業なくして、生物は進化しないのに、です。なんだか、敗者と勝者の共同作業なくしてスポーツは進化しないのに、勝者にばかり目が行きやすいのに似ています。

 また、個人間から国家間まで、さまざまなレベルで起こる葛藤に対しても、私たちは同様の傾向にあります。葛藤もまた進化するうえで必要不可欠なのに、とかく葛藤をなくすことばかり考えます。規制する江戸幕府とそれに抗う絵師の葛藤なくして、浮世絵も進化しなかったであろうことは、すっかり忘れているようです。

 虐待問題についても同じようなものです。しかし、虐待問題は言わば社会問題のアンテナショップですから、撲滅できないことにばかり拘らず、解決に向けた創意工夫に腐心したいものです。そうすれば、急がば回れの回り道を見つけやすいですし、他の社会問題の解決にも、もっと役立てると思います。

 また、これまで見落としてきた点に気づけるというご利益もあります。たとえば、創意工夫とは言うものの、義務的な性格の強い生活上の営みである仕事の視点からしか発想しないことへの気づきです。「生活のために仕方なく仕事している」ならなおさらです。

 生活上の営みには、余暇活動も含まれています。現に、音楽やスポーツ、DIY、園芸など、趣味を通して獲得したスキルやノウハウを仕事に活かしている例は、数え切れないくらい沢山あります。それなのに、余暇活動の経験を、解決に向けた創意工夫に活かさないというのは、いかにも勿体ない。

 「好きこそ物の上手なれ」と言われるように、余暇活動には主体的に取り組みますから、自分の能力を存分に発揮して早く成長できます。努力を苦にせず一生懸命取り組むのですから当然です。そして、獲得したスキルやノウハウは、義務に縛られながら獲得したそれより、概して活かし易くもあります。

 それに、たとえ無趣味だとしても、誰しも子どもの頃に夢中になったことの1つや2つはありますから、それを思い出して発想すれば、きっと良いアイデアが得られます。夢中になることは、「やってみなはれ」の精神が大いに刺激された証なのですから。

「仕事に活かせる、減らず口!」
「ラップバトルが趣味なのネ」

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