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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

パフェ作りも立派なお手本

 何層にも重ねられた種々のクリームに、色とりどりの果物が散りばめられ、インスタ映え間違い無しのパフェ。先日、このデザートが日本で大きく進化したと知りました。そして私は、魂は万物に宿ると考えるアニミズムに親しんだ日本人のパティシエなら、あれこれこだわるのは当然かもしれないと思いました。

 一方で、パフェ作りの第一人者のお話に、いたく感じ入りました。「パフェは、上から食べ進めるから、作り手は、層の順番に沿って最初から最後に至るまでの一連の流れをイメージして作る」という主旨なのですが、「虐待事例の個別対応も同じだから、ジャズの即興演奏同様、また良いお手本を見つけた」と思ったのです。

 支援者もまた、支援の始まりから終結までを、一連の流れとして組み立てます。クリームや果物と人間の違いはあるものの、手を加えさえすれば良い、というわけではない点も同じです。一連の流れの組み立てや手の加え方こそが、腕の見せどころというわけです。

 この点について私は、「菓子の甘さは干柿の甘さを超えてはならない」という説に倣って考えるようにしています。人工甘味料を加えればいくらでも甘くできます。しかし、自然の甘さを超えると、素材の持ち味を殺してしまうところが、対人援助にも通じるからです。

 スーパーバイザーからもよく「対人援助は植物を育てるのと同じだ」と言われたものです。「じっくり観察して、必要最小限の水分や栄養分を補いさえすれば、植物はすくすくと育っていく。人間も同じだ」という教えです。

 もっとも、駆け出しの頃はさじ加減が分からず、「何故ここで手をこまねいている」「何故ここで余計なことをする」のオンパレードでした。しかし、よく考えてみると、虐待事例も、かつての私のように、人為的で不自然な要素が多過ぎるのかもしれません。

 たとえば、もともと無理な同居、支援者側の効率が優先された施設での集団生活、法律を逆手に取るような雇用などですが、「押しても駄目ならもっと押せ」とばかりに、人為的かつ短絡的に流れた結果であるようにもみえます。他にも選択肢はあるのに、です。

 この点について、事例対応ではむろん、当事者とじっくり時間をかけて共に考えていきます。しかし、単発の研修では、短時間で満足度をあげるために、強みを活かすソフトスキルだけを強調しやすくなります。人為的に過ぎるように思え、気になるところです。

 少なくとも、何回かで構成するシリーズ研修なら、自分の弱みを自然と克服できるように工夫したいものです。それこそ、研修に参加して「一皮むけること」が可能になるかもしれません。

 パフェ作りにおいて、食べる層の順番だけではなく、同じ層の中で素材をどう組み合わせれば、それぞれの持ち味を最大限に活かせるか、知恵を絞るのと同じでしょうか。こう考えると、パフェ作りは、研修のお手本にもなりそうです。

「私、菓子詰め得意なの!」
「何事にもコツがあるのネ」