梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
禰豆子ではなく鼠がやって来た
わが家の天井裏にネズミが入り込みました。先週ブログをお休みしたのはそのせいです。手に負えないので、駆除業者にお願いすることにしましたが、意外なことに、業者探しの勘所が、虐待への取り組みの勘所であるようにも思えました。
私は、対人援助のプロとしての自己肯定感を高める方法の一つとして、「自験例に通し番号をつけること」をおすすめしてきましたが、これを地でいくような業者を探すことができたからです。
もっとも、ネット検索をして、ネズミの生態や建物の作りなどをふまえて「何がどうしてこうなる、だから何をどうすればどうなる」を最もよく説明しているところを、沢山のホームページのなかから選んだだけです。
確かに、業者の宣伝のなかには、駆除方法の豊富さを謳っていても、「再侵入を許してしまいそう…」「殺鼠剤はすごく強力そうだけれど、天井裏で死なれたらその死骸の回収はできるの?」など、「それが本当に最適解?」と疑問を抱くようなところもあります。
このことは、虐待への取り組みにおいて、新しい家族のあり方を考えるときにも当てはまります。たとえば、「子々孫々の繁栄の最適解は、イエを直系男子それも長子に継がせることにある」という主張があるとします。果たして、後々どうなっていくのでしょう。
まず、「そもそも制度としてイエがなくなっているのにおかしな話ではないか」という疑問がわきます。加えて、「子々孫々の繁栄は良いとして、何故それが、男尊女卑や年功序列など、性や年齢による差別をし続けることで達成されるか」がさっぱり分かりません。
この点で、家族の多様なあり方を認めていくほうが、はるかにサステイナブルだと思います。しかし、自分たちと異なることを認めない人は多く、ことは複雑です。日本人の特性だと言う人もいますが、古今東西、どこでも似たりよったりではないでしょうか。
植民地政策をとっていた頃の英国についてこんな話を聞いたことがあります。それは、当時の英国は、政治犯など「自分たちと異なる者たち」が自国で暮らすことを拒み、彼らを強制的に植民地開拓の労働に就かせた、という話です。
随分と無茶なことをしたものですが、かつての植民地は今やどこも相当に発展していますから、あながち失敗だったとは言い切れないのかもしれません。しかし、私は、英国本土の人々が開拓に赴いていたら、今のように発展しなかったのではないか、という気がしています。
未開の地の開拓は大自然への非常に濃密なコミットであり、自分たちと異なることを認めない偏狭な姿勢では、自然に負けるか、人が住めないくらい自然を破壊するか、だったであろうと思えるからです。開拓者たちはきっと、多様性を認めることができたので、自然とも折り合えたのではないでしょうか。
「前向きに検討はしますが…」