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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

住んでも都、住み替えても都

 先日、興味深いネットの書き込みに出会いました。小学生のお子さんが休校措置で遠隔授業を受けるようになり、それまで苦手だった勉強に次第に勤しむようになったというエピソードです。筆者のお母さんは、勉強で引け目を感じなくても良くなったことが大きかったようだといいます。

 確かに、対面授業では下手をすると、勉強の出来ない子は「自分は勉強ができない」という事実と何時間も向き合い続ける羽目になりますから、楽しかろうはずはありません。そこへいくと、遠隔授業なら引け目を感じずに自分のペースで勉強できます。

 私は、このお子さんの気持ちがよく分かるような気がしました。ロケハンや収録ができず昔の作品の一気見や蔵出し映像を編集した番組ばかりで辟易していたとき、ふと気づくと、人の映っていない花鳥風月の映像にとても癒やされていたからです。

 「このお子さんも私同様の癒しを得られたのではないか」と思ったわけですが、誰しも、自分の気に染まない環境への長居は無用で、より快適な環境を求めたとして、当たり前と言えば当たり前ではあります。

 しかし、ことはそんなに単純ではありません。遠隔授業は、友達との楽しいおしゃべりや大好きな給食や運動に我慢を強いているかもしれませんし、花鳥風月の映像ばかりでは、三密居酒屋でのバカ話が恋しくなろうというものだからです。

 おそらく私たちには「異なる環境の行き来を好む傾向」があって、それが満たされないと凄くストレスを感じるのではないでしょうか。実際、外出自粛で家庭内の三密はぐんと高まり、虐待問題全般の件数もかなり増えることが分かっています。

 密接した関係を余儀なくされれば、強者の弱者支配はより強まって当然だからですが、これには定住型の暮らしを前提とした社会であることも関係しているような気もします。「歴史的にみると、人は移動型の暮らしから定住型の暮らしをするようになり、土地を巡って争うようになった」という話を思い出します。

 ビッグヒストリー的な視点で見ると、地球規模では地磁気逆転も氷河期も繰り返しているくらいですから、たかだか人間が、定住型な暮らしに飽きて移動型の暮らしを欲しても、驚くことはないのかもしれません。

 奇しくも、急にリモートワークが増えることになったのも、何かの巡り合わせであるかのような気さえしてきます。いわば、新型コロナ禍は、「定住型の暮らし一辺倒を見直してみてはどうか」という天の声かもしれないというわけです。

 何だか中二病的な話になってきましたが、異なる環境を行き来できることは、私たちの健康の維持・向上の鍵であり、都市政策と福祉政策の統合のキモとなるような予感はします。

 居心地の良い環境にはそのまま居続けたくなるものですが、実は、定住型と移動型の暮らしを繰り返せるようになってこそ、本当に健康的なのだと言えるのではないでしょうか。

2030年、刑事さんの呟き。
「移動型社会での逃走手段はグランピング!?」