梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
-
日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
恐縮ですが、また宣伝です。
いつもお世話になっている中央法規出版様の雑誌「おはよう21」に、従事者による不適切なケアに関する記事を書かせて頂くことになりました。その記事では、不適切なケアを4つに分類しているのですが、原稿を書いているときに、ふとしたアイデアが浮かびました。
それは、介護の現場で働く人々の動きを全体として俯瞰できたなら、鳥や魚の群れの動きと同じように、一個体のように動いているように見えるのではないか、というものです。
クレイグ・レイノルズ氏の作った「boid(ボイド)」というシミュレーション・プログラムに、鳥は(1)仲間の方へ集まろうとする、(2)お互いに同じ速さで飛ぼうとする、(3)互いに衝突しないようにする、という3つのルールを投入すると、その集団行動をそっくりそのまま再現出来るといいます。
魚のホッケの群れも負けてはいません。幾つかのルールに従うだけで、まるで巨大なクジラが餌を食べるかのような集団行動をとります。何万匹ものホッケが上下に泳ぐことでハリケーンを上下反転させたような渦を作り、それによって集められたプランクトンを効率的に捕食する、といいますからビックリです。
鳥や魚の群れにリーダーはいませんし、互いの意思疎通もありません。それなのに、整然と集団行動できるのですから、単純なルール恐るべしです。介護の現場にはリーダーもいますし互いに意思疎通もできるのですから、全員が従う単純なルールさえあればきっと、良いケアを整然と実践する集団になれるのではないでしょうか。
私は、冒頭でご紹介した不適切なケアの4分類に注目します。この分類は言わば「4つの掟破り」ですから、掟(ルール)を守れば即ち、適切なケアになるというわけです。今のところ、(1)説明と同意に問題あり、(2)ケアの根拠の説明に問題あり、(3)過干渉、(4)放任の4つに分類しています。
(1)には、説明や同意の確認が不十分な例を、(2)には、利用者にとってのメリットがデメリットを上回ることの説明が不十分な例を、(3)には「やり過ぎ」として、指示の多い「支配タイプ」のケアと利用者の自立を損なう「溺愛タイプ」のケアを、(4)には「やらなさ過ぎ」として、「手抜き」の例などを想定しています。
いずれにせよ、いつものように私の担当編集者の渡邉氏は沢山のヒントを下さいますから、きっと、虐待や事故の温床であり介護現場の「リスク」の筆頭でもある不適切なケアを、マネジメントしていくために役立つ記事になると思います。
「『バラエティー番組への出演は珍しい』と思ったら結局番宣?」の芸能人よろしく、結局のコマーシャルで、ごめんなさい。
編集者「ほどほどに…」