梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
笑えないお笑いを嗤うことなかれ
天候不順が続いて気温も低めで、夏ばてするには少し早いかもしれません。しかし、このところ、すごく悲しくなったりすごく怒りを覚えたりするニュースがあまりに多くて、私は少々「ニュースばて」気味です。
高齢ドライバーによる悲惨な交通事故、学校や児童相談所の不手際によるいじめ自殺や虐待死、豪雨などがもたらす甚大な被害、はてはテロとしか表現のしようのない凄惨な放火事件などなど。
いずれも大きな出来事なので、連日報道されますから、だんだんと私は負のオーラに包まれているような気分になってきます。「もういい加減にしてくれ!」と叫びたいくらいになると、陽のエネルギーをチャージすべく、お笑いなどに救いを求めます。
ところがなんということでしょう。お笑い芸人の闇営業問題で大騒動が巻き起こっています。しかも、私の大好きな芸人さんが渦中の人物の1人ですから、彼が出演していたドラマや映画を見ても、以前のように笑えません。本当に、「俺から笑いを奪いやがって一体どうしてくれるのだ!」です。
ところで、「笑うことができる動物は人間だけだ」と言われたりします。それは人間が動物より高等なことを示しているのでしょうか。また、免疫力は笑うことで高まる、とも言われます。私には真偽のほどは分かりませんが、それでも、笑いは私たちの健康には必要不可欠なものだと思います。
そもそも、笑えない出来事の報道に多く接し過ぎてバテているのですから、当然と言えば当然です。それに、世の中には救いのない話は少なくありませんが、どんな酷い状況に陥っていても、人は、ほんの少しの救いで笑顔になれます。
そして、驚くことにその小さな笑顔は、また別の人の救いとなっていきますから、私たちには、些細なことであっても、笑顔の連鎖が生じるような自己防衛機制が組み込まれているのではないでしょうか。
私は常々、人の心は、自分にとって悪いことが起こると減点し、良いことが起こると加点するカウンターがついているようなものだ、と考えています。そして、どの人でも持ち点は同じであり、カウンターがマイナスにならないように生きている、という考え方です。
もし、自分にとって、どんなに良いことが起こっても加点せず減点しかしない人がいるとしたら、時間の問題でカウンターはマイナスになるため、うつ病のような状態になってしまいます。ですから、自分にとって良いことが起こるように努めないといけませんし、その手っ取り早い手段の一つが笑うことなのだと思います。
この意味で、虐待の防止への取り組みは、1人でも多くの人の笑顔を取り戻そうとすることと同義なのかもしれません。
「ママは無邪気だねぇ・・・」