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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

人材難はまさかの人災?

 私には、虐待防止と関連のあることを言語連想的に考えてしまうところがあります。このところ、介護人材の確保にまつわる外国人労働者の問題や、厚生労働省が初めて作成したガイドライン「介護分野の生産性向上について」には無関心ではいられません。

 また、高齢者虐待と認知症の関連も深いため、先日まとまった認知症対策大綱の原案も気になります。予防と共生を柱に、2025年までに70代人口の認知症者の割合を6%減らすという数値目標さえ掲げていますから、「虐待防止に役立つだろうか?」と興味津々です。

 枚挙に暇はありませんが、興味関心は多方面に拡散するだけではありません。案外スッキリと収斂することもあります。最近では、海外の幼保現場で発生している虐待からの教訓です。

 貧富の差が拡大している中国では、裕福な家庭の子どもと貧しい幼稚園教諭という構図があり、レベルの低い教諭からの園児への虐待が社会問題化しているそうです。学歴社会のため、教育熱心な富裕層の親がみな子どもを幼稚園に入れたがる一方、拝金主義の経営者たちは、お金と手間暇かかる教諭の養成を怠り、人数だけ増やしていることが背景にあるようです。

 また、韓国では2013年から保育の無償化をしていますが、保育士の量の確保が優先されて養成は後回しとなり、質が低下しているそうです。その結果、こちらでも保育士による園児への虐待は後を絶たないといいます。

 いわば「養成を怠るところで虐待は必ず増える」というストーリーであり、介護人材の確保に悩むわが国も、養成だけはキチンとしたほうが良さそうです。

 そもそも、介護や子育ての分野は、それまで家族が担っていた仕事を、外部のプロが担うようになり発展してきました。そのせいか、私たちには、どこか「家族という素人でもこなせた仕事」と認識してきたところはなかったでしょうか。

 しかし、実際に求められるレベルは案外高く、「素人でもこなせた仕事」どころか、養成にはお金も時間も相当かかるものだった、というサイドストーリーもありそうです。

 年配のホームヘルパーの方々は数多ご活躍ですが、彼らは、炊事、洗濯、掃除などの家事を外部委託しない時代を生きてこられました。ですから、家事全般について年季が入っていて、それが大きな強みとなっているようにみえます。

 もっとも、人材の量と質をともに確保するは簡単ではなさそうです。かなりの工夫が必要になります。そこで思い出すのは、チェーン店の店舗ごとに製麺をして成功している会社があると聞いたことです。

 その会社は、機械製麺の品質を超える製麺スキルを持つ「麺職人」を養成する一方、ソフトスキルはマニュアル化して、上手に組み合わせています。また、パートタイマーでも店長になれるなど、目からウロコの人事システムもあるようです。

 こうした例は、「工夫次第で人材の量と質は確保できる。工夫がないのは人災だ」と訴えているようにも思えます。

「自動車の“自”って誰のこと?」
「まさかの僕?」