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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

持続不可能な社会

 このブログ「8050問題」でご紹介した内閣府の「生活状況に関する調査(平成30年度)」の結果が発表されました。何と、中高年の引きこもりは約61万人にのぼると推計され、4分の3は男性だといいます。

 何やら、高齢者虐待における虐待者のイメージと重なるようで、先行きが気になります。というのも、息子40%、娘15%前後で推移していて、なかには引きこもりの息子や娘も少なくないからです。

 虐待の要因としてはよく、介護ストレスが取り沙汰されます。しかし、案外、根底に引きこもりの問題を抱えているところに、介護の問題が重なるかたちで虐待が発生する流れもあるのではないでしょうか。

 また、虐待者の20%前後を占める夫には、以前からDV夫であった例が多いことも考え合わせると、養護者による高齢者虐待のベースには、家族関係上の問題が横たわっているのかもしれません。

 つまり、何らかの問題がある家族関係に介護問題が加わると、虐待は発生しやすくなるというわけです。この考え方のもと、詳しく事情を調べてみたら、未然防止のヒントを得られるような気がします。

 たとえば、家族関係の健康度を評価し、ある基準を超えたら「ハイリスク家族」として支援展開できる道筋をつけられるなら、虐待の発生するずっと前の段階で働きかけることができます。

 家族関係の健康度に注目することは、いわば乗り物の総積載量を気にするのと同じです。ところが、多くの支援は縦割りになっていて、個々の荷物の重さにだけに気を遣っているようなものです。したがって、対人援助者なら、家族全体の総積載量にも目を向けるよう心がけたいものです。

 ところで、中高年の引きこもりにしても、介護の現場では以前からよく知られてきた問題です。しかし、引きこもり支援は本業ではありませんし、何か適切なサービスを紹介しようにも、肝心のサービスがないため、対応に困ってきました。

 こんなとき、家族関係の健康度を評価し、「ハイリスク家族」として支援展開するような体制があれば、もっと早く対策を進められたのではないでしょうか。いじめやハラスメントにしても、人間関係の健康度を評価する視点があれば、もっと対策は早まったはずです。

 とくに、家族や学校、職場など、近しい人々の人間関係は、社会の基礎的な単位になり得るものです。ですから、その健康度に対する感性は、持続可能な社会としては備えておくべき資質だと言えます。

 にわかにその具体的なイメージを描くのは難しいのですが、近しい人間関係の健康度を評価し、問題があればワンストップ・サービスで対応する体制の構築は、私たちの社会に課せられた重要かつ喫緊の課題であると考えます。

 基礎的な単位が崩れたのでは、持続不可能な社会になってしまいます。

「さぁ、一家団欒の時間だ!」
「これって健康?不健康?」