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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

小さな自治体の大きな慧眼

 埼玉県の北西部に神川町があります。人口1万4千人弱ですから大きな自治体ではありません。先日、高齢者虐待の防止研修でお招き頂き初めてお邪魔したのですが、研修に対する取組みがとてもキチンとされていて、大いに感銘を受けました。

 これまでの取組みついて概要をうかがった程度ですが、それでもキチンとしていることは十分伝わりました。カバーされないことも多い、ケア付き住宅など住宅系サービスの従事者研修や施設等の管理職向け研修、初級・中級・上級など、経験に応じて編まれた研修と、体系的かつきめ細やかに考えられています。

 一般に、虐待対応の体制整備は、大きな自治体ほど進んでいると言われます。研修もしかりで、大きな自治体の方が充実している印象があります。しかし、大きな自治体以上に体制整備の進む小さな自治体があるということも、またよく知られています。

 神川町様はその好例だと思います。庁舎に入った第一印象が、「ひと目につきにくいところまで、随分と掃除が行き届いている」であったのは、研修に対して目配りの利いていることを暗示していたのかもしれません。「割れ窓理論」のように、目につきにくいところに目の届いている凄さ、とでも言えるでしょうか。

 研修は、将来への投資の側面を持つと思います。対人援助者の今ある実践力の向上は言うに及ばず、同時に後輩を育てる力も養われますから、実践・教育力の持続的な向上につながります。

 しかし、経済状態が冷え込むと、真っ先に予算を減らされてしまいます。確かに致し方ないのかもしれませんが、現在人手不足で困っている分野は決まって、高度経済成長時代以降、人を使い捨てにしてきた分野である、と言われることを教訓にしたいものです。

 とくに、たとえ単純労働であろうと、徹底的に反復されることによって、マニュアル通り行うだけでは為し得ないハードスキルが生まれる点は見落とせません。人を使い捨てにしては、この肝心のハードスキルは伝承されませんし、もとより給与は安いのですから、人材の質と量を確保できなくて当然です。

 ところで、虐待問題への取組みの観点からみると、行政のスケールメリットとして、専門職員の配置などの体制強化や、行政運営の効率化による経済基盤の強化などが思い浮かびます。もっとも、住民の生活実態やニーズに即したきめ細かな行政サービス提供の困難化、周辺部への行政投資の縮小などのデメリットも思い浮かびます。

 研修なら、大きな自治体では、大規模だが金太郎飴的な研修になりやすく、また、会場が遠く参加しにくい人々が出てしまう一方、小さな自治体なら、小規模だがニーズにマッチした研修を行いやすく、会場も近くて参加しやすい、といったところでしょうか。

 こう考えると、肝心なのは物事の本質を見抜く洞察力であり、それさえあれば、スケールメリットのない小さな自治体でも、大きな自治体に引けは取らないのかもしれません。

「見た目は大人、頭脳は子ども…」
「むしろ、ヤンデレでは?」

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