梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
小説より奇なる事実を知っているなら
大学はちょうど今、期末試験の時期です。私も試験問題を作ります。大抵は、何らかのテーマについて論述してもらうことにしています。「文書によるスーパービジョン」でもふれたように、文章にまとめてもらうと、テーマに関する学生の習熟度がよく分かるからです。
採点しないといけないので、確かに推理小説を読むような楽しみはありません。しかし、よく学んでいない学生の答案は決まって分かりにくく、よく学んでいる学生の答案は決まって分かりやすいため、一目ならぬ一読瞭然です。
たとえば、教科書の内容を要約してあるとして、部分と部分のつなぎ方が悪いと意味不明になります。「したがって」の後に続く文が「したがって」いないなら話の筋は通りませんし、論理がいきなり飛躍するのでは戸惑うばかりです。
また、教科書に載っている専門用語をただ並べただけの答案も少なくありません。書き手がよく理解していないのに用いてしまうと本当に難解です。専門用語の意味をよく知る読者なら、何故その並びなのか疑問がわきますし、意味をよく知らない読者には、まさにチンプンカンプンです。
それに、専門用語ばかりだと、教科書をまる写ししたような印象になりやすいものです。「よく分かっている人ほど、難解なことを簡単な言葉で表現できる」と言われることに通じるのかもしれません。書き手の洞察の鋭さを感じるような文章には、思わず「よく分かっていらっしゃる」と言いたくなります。
そもそも「ペンは剣よりも強し」と言いますし、答案一つで書き手のことがよく分かるのですから、文章にはとても大きな力があります。それに、文章は奥深いので、自分が書き手になったとたん、訴求力は弱いのに浅薄さだけは相手によく伝わる気がして、弱気にならざるを得ません。
しかし、私たちには生身の人間を相手にした対人援助の体験があります。そこで、自験例を文章にしてみると良いのではないかと思います。すでにこのブログでは、アセスメントは事例を物語としてみると良いとか、支援計画は脚本のように立案すると良いと提案しました。
これらをふくめ、事例を小説や脚本のように文章にするトレーニングを積むと、対人援助や記録の能力をより向上できるのではないでしょうか。先日の研修では、問題解決までの脚本を書いて紙人形を使い演じる演習をして頂いたのですが、実践能力と脚本の出来栄えは比例している印象でした。
また、「脚本家は人間の心理や関係を本当によく分かっていらっしゃる」と言いたくなる脚本は数多あります。きっと脚本家の方は、対人援助のアセスメントや支援計画の立案も上手にこなされるのだろうと思います。
そんなこんなで私は今、「事例を小説や脚本にするトレーニング法を考えようかしら」と半ば本気で考えています。
「勤務中だとちょっと・・・」