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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

虐待対応のレシピ

 ある区役所の高齢者福祉課の係長さんが、「自分はこの部署に来て3年目になる。いつ異動してもおかしくない。そこで、高齢者虐待への取組みのなかで積み上げてきたものがリセットされないように、後任に何かを託したいと思う」と仰っていました。

 私はこのお話をうかがって、「仕事ができる人というのは、先読みしているため準備にぬかりがないのだな」と思う一方、似たようなことが新聞で報道されていたことを思い出しました。それは、児童虐待の防止対策に関して、児童相談所の人手不足と力量不足が問題になっているというものです。

 とくに、後者について、力量向上のために早急に職員を養成する必要があるものの、2、3年たって事例対応に慣れてくると異動になり、不慣れな後任に任される現状があるようです。これでは、第一線の力量は不足し続けてしまいます。

 何とかならないかと考えていたとき、思い浮かんだのは「料理人のレシピノート」です。レシピノートには、その料理の材料や作り方、調理のコツなどが書かれています。内容はシンプルですが、料理人にとっては、いわば仕事のエッセンスがつまったまさに財産です。前任の料理人が引退などにあたって後任にそのレシピノートを譲るシーンは、感動の場面としてよくドラマでも見かけます。

 後任は、譲られたレシピノートを参考に、伝統を守ったり、新たな境地を開いたりしていきます。そこで、虐待問題への取組みについても同様に、体制整備から個別対応まで、レシピノートのような冊子を代々受け継いていくようなシステムにしてはどうだろう、と考えました。急に異動することになっても、リセットの弊害を少しは減らせると思うからです。

 もちろん、代々受け継がれていきますから、冊子の中身はとても重要です。それに、より良くなるように改定されていって欲しいものです。ですから、冊子を書く側は初心者が読むことを想定して書き、読む側は読んだ内容を実践できる最低限度の技能を身につけていることがポイントになると思います。

 まず、レシピノートのように、初心者が読んで作ったとしても、まがりなりにもその料理を作り上げることができるよう、具体的に書かれている必要があります。概念的なことや曖昧なことが書かれていると、初心者では実践できません。

 また、いくら初心者であっても、レシピノートを見て、料理を実際に作れる最低限の技能は持っていなければなりません。たとえば、「面取りをする」と書かれていても、面取りが何のことか分からなかったり、面取りする包丁の技術がなかったりしては話にならないからです。

 こうした冊子が代々受け継がれるシステムは、少なくとも、初心者には何を伝えれば良いのか、初心者が冊子を実践するためにはどのような技能が必要なのか、肝心なところが明確にされていきますから、より建設的なアイデアが得られるのではないでしょうか。

先輩「私のアドバイスは口伝!」
後輩「ぐでんぐでんの間違いでは?」