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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

通報して下さいメール!?

 読売新聞(26日付朝刊)によると、厚生労働省は2019年度から、虐待リスクのある子どもの情報を関係機関で共有するシステムを導入する方針だそうです。市町村と児童相談所に専用端末を置き、乳幼児健診や転出入、家庭訪問の記録などの情報を入力して、閲覧できるようにするといいます。

 確かに、こうした情報共有のシステムがあれば、市町村内部でばらばらに管理されている情報は集約されて、児童相談所も迅速に動けそうです。同様のシステムは、人身安全関連事案に関わるすべて機関においても、あればとても便利そうです。

 しかし、関係機関間の情報共有が進むだけでは少し弱い気もします。というのも、虐待の観点からの情報へのアクセスに敏でないといけないからです。よく「虐待の疑いを持ったとしても、然るべき所への相談・通報に結びつかないなら、本当の発見にはならない」と言われるのに似ています。

 たとえば、世間話をしているとき「近所の気になる家庭」が話題にのぼることがあります。「福祉の仕事をしているのに、通報しないとまずいよネ」というわけです。仕事柄、福祉関係の仕事に就いている人々と話す機会が多いせいでしょうが、案外よく聞く話です。

 また、新聞紙の一面で虐待の事件が報道された後などには、居酒屋にいる一般企業のサラリーマン風の人が「近所の気になる家庭」について通報した体験談を耳にすることさえあります。

 したがって、人々の“虐待センサー”の精度を高め、感知された情報を集約、皆で共有していくというのがポイントなのかもしれません。このことは、換言すれば、どのようなカタチであれ、人々が人身安全関連事案へ主体的に関わることの促進に他なりません。

 それではどうすれば良いのか。すぐに思い浮かぶ、人が主体的になる最も簡単な方法は、その人が主体的に使えるスペースを確保することです。たとえば、IT企業など、最先端を走る企業はおしなべて、社員が主体的に使える自由な空間を確保しています。果たして、社員の主体性は促され、創発的アイデアが次々と誕生します。

 もっとも、情報通信技術の発展が目覚ましい時代ですから、物理的な空間を確保するというより、サイバー空間を確保するというほうが現実的かもしれません。要するに、コンピュータやネットワークにおいて、多くの人々が自由に人身安全関連事案にまつわる情報を発したり得たりできる仮想的な空間の確保です。

 遠からず、ある日突然、サイバー空間を管理するAIから、「貴方が◯年◯月◯日夜◯時、居酒屋◯屋で話していた近所の気になる家庭ついて、◯支援センターに通報して下さい」という電子メールの届く時代がやってくるかもしれません。

 これはこれで、少々怖い気がしますが。

「家庭訪問しないと駄目でしょ!」
「妻にもPCにも怒られる…」

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