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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

半端ないバナナ

 ここ3カ月の間に、100数十人規模の従事者による虐待の防止研修を6回ほど行いました。研修の後には決まって5、6名の方々がご質問にやって来てくれたのですが、それらを集めればゆうに2時間研修ができるくらい濃い内容でした。

 もっとも今回は、質問の中身ではなく、質問して下さった方々の仕事に取り組む姿勢について述べたいと思います。どなたも、真に仕事のことを考えていることが、肌身を通して伝わってきたからです。

 それは、受け身の学生からは感じることのできない、まさにアクティブラーニングの姿勢です。3Kとか4Kなど、とかく否定的なイメージで語られることの多い介護現場で働く人々が、こんなにも熱く取り組んでいるのか、と感嘆しきりです。

 そんなとき、あるバナナの誕生を扱ったテレビ番組を見ました。そのバナナは、岡山の方言で「ものすごい」を意味する「もんげー」を名に冠して「もんげーバナナ」といいます。流行りに乗った表現なら「半端ない」バナナでしょうか。

 外国産のものより糖度は高く、皮ごと食べられるそうです。そして、何よりものすごいのは、日本では気候が適さないため栽培するのは無理だと言われてきたのに、現に日本でも栽培できている点です。

 その秘密は「凍結解凍覚醒法」という方法にあります。植物の種子や細胞に、独自の凍結と解凍を施して氷河期を体感させ、順応性を最大限に覚醒させて、日本の地でも育つようになったといいます。

 この、氷河期を乗り越えて世代をつなぐ植物のチカラ、という点が私の中で、長年にわたり否定的なイメージがつきまとってきた介護現場に働く人々に重なりました。介護現場という「氷河期」を経験してきた人々は、植物同様、乗り越えていけるチカラを持っていると思うのです。

 私は、その力を覚醒させることができたなら、覚醒していない外国産のバナナより甘くなれる、つまり、他分野より良い職業人になれるのではないかと信じたいと思います。現に、不適切なケアや虐待が起こりやすい環境にあるのに、「仕方ないじゃない」とは諦めず、懸命に防止に取り組む人々がいますし。

 研修でご質問下さった方々の姿勢にも、この「覚醒」の萌芽を感じます。別の言い方をすれば、対人援助のPDCAサイクルを徹底的に反復してきたことが功を奏し、「型より入りて型を破る」を体現しはじめたのかもしれません。

 書道では、まずはお手本を徹底的に反復訓練して「型」を体得します。そしてこの型を体得した者のみが「型」を破っていけます。同じく、対人援助の「型」を体得した人々が、いよいよ覚醒して「型」を破りはじめている、と見たい気がします。

猫「毛の量半端ない!」
私「吸着力かなり半端…」