梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
基準がないならDIY
先日、ある高齢者虐待の事例検討会に参加して、特別養護老人ホームのサービス基準は、養護者によるネグレクトと不当な身体拘束の判断に援用できるのではないか、と閃きました。存在しない基準はDIY(自分でつくる)といったところです。
まずはネグレクトについて。支援者からみて介護サービスが不足しているとき、「虐待か否か」とか「分離すべきか否か」と悩むことは多いものです。このとき、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)を参考にします。
第13条第2項に「指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない」とあり、これは、憲法第25条の一節「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の「健康で文化的な」を示す、と考えるわけです。
食事や排泄など、入浴の他にも介護行為は数多ありますが、施設での平均的な水準は整理できると思います。要介護5なら、日に必要な介護は、食事は3回、排尿8回、排便3回程度といったところでしょうか。
ネグレクトの件数は要介護度に比例して増える点(認知症介護研究・研修仙台センター「高齢者虐待の要因分析及び高齢者虐待防止に資する地方公共団体の体制整備の促進に関する調査研究事業報告書」平成30年3月、pp.58-59)に注目し、要介護5を100%として、要介護4から要支援1の6段階を等分に減じれば、さらに精度を上げられます。
しかし、家族による介護と従事者による介護を足した介護量の基準を、入所施設の介護量の基準に当てはめると、養護者にはハードルが高い気もします。老老介護やヤングケアラーが社会問題化してもいますし。そこで、たとえば、2分の1以下なら虐待と判断、3分の1以下なら分離を検討、とすることなどが考えられます。
つぎに、身体拘束についても、入所施設の基準を援用すると、使い勝手は良さそうです。施設等に関しては、介護保険の介護報酬改定で「身体拘束廃止未実施減算」が導入されたばかりですが、養護者のハードルは下げたいところです。これは、徘徊する独居の老親を別居の子が介護する場合などへの配慮であり、以下のように考えてみました。
いわゆる身体拘束3原則(切迫性、非代替性、一時性)について、養護者も参加する個別ケア会議で検討します。つまり、施設等での身体拘束が「合議」により決められることに相当する手順を踏むわけです。そして、説明と同意や記録など、「不当」とされない条件も満たす場合に限って、虐待(不当な身体拘束)として扱わない、ことにします。
こうすれば、「虐待にあたるかもしれない」と怯えつつも「他に方法はないから仕方がない」と、家に施錠する後ろめたさに苛まれる養護者や従事者を救えるのではないでしょうか。
「ああ、自分探しね・・・」