梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
-
日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
パッケージクラフトの精神に学ぶ
「パッケージクラフト」をご存じでしょうか。お菓子や食品の空き箱を使って作るペーパークラフトです。作品や作り方などは、一般財団法人日本ペーパークラフト協会様のHPでご覧になれます。
パッケージクラフトの生みの親である高橋和真氏は、従来の空き箱工作では、元のデザインが活かされておらず、もったいないとの思いから、この方法を思いついたそうです。
そのため、「空き箱は使い切る」とか「文字の部分は読み取れるようにする」といったルールが設けられ、工作難度は、一般的なペーパークラフトより高いと言えます。
ところが、素材となる空箱はほとんど全て無駄にしないうえに、できあがった作品はどれも、作者の創意工夫で溢れています。しかも、ステップ・バイ・ステップで作り方が図解されており、誰でも作れるのです!
私は、元の素材を無駄にしない点と、オープンソースソフトウェアのように、作り方が公開されている点に、このクラフトの精神をみる思いがして、とても惹かれます。
社会問題の解決については、社会資源を含む環境は、そう簡単に足し引きできませんから、解決は、むしろ現状をトランスフォームする方向で考えることが多いため、パッケージクラフトのように考えていけたら、本当に素晴らしいと思うからです。
よく「第二の人生」と言いますが、第一の人生を歩んだ自分を「空き箱」とすれば、その空き箱を、創意工夫で余すところなく活かして、第二の人生という「作品」へ昇華させ、そのうえ、作り方さえ惜しみなく公開する。まさに、パッケージクラフトの精神こそ、王道であるような気さえします。
それに、「空き箱」は、「虐待」でも「孤独・孤立」でも「少子高齢社会」でも、何でもよいのですから、パッケージクラフトの精神は、本当に活かし甲斐があります。
虐待問題の近接領域であり、介護保険の改正間近で何かと話題の「高齢者介護」もまた然りです。
わが国では、その近未来のあり方である「作品」を、医療、介護、介護予防、住まい、生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」として描き、現在のあり方である「空き箱」を、国や都道府県のバックアップのもと、市町村が中心となって、自助・共助・公助ミックスにより、トランスフォームする計画です。
しかし、私は、この計画のままでは、「空き箱」は使い切れずに、「作品」はいびつになるか描きかえるはめになると思います。いわんや「作り方」の公開なんて、夢のまた夢でしょう。
それは、ひとえに、私益活動と公益活動の峻別が、キチンとされていないからだと思います。「空き箱」に書かれた文字が、「間違い」乃至「意味不明」なのでは、「文字の部分は読み取れるようにする」というルールは守りようがない、というわけです。
その心は、「詐欺まがいの商売や従業員の搾取に走る私企業がある一方、メセナやフィランソロピーや障害者雇用に熱心な企業もある。親方日の丸や天下り礼賛の自治体や公企業がある一方、模範的あるいは先進的な事業に挑む自治体や公企業もある。税制優遇で私腹を肥やす公益法人がある一方、手弁当で頑張る公益法人もある。いずれにせよ、これらをキチンと整理することなくして、空き箱に書かれた文字自体の意味は、明確にはできないでしょう」です。