梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
目指せ!ブレーク・スルー
セルフ・ネグレクトというと、すぐに「ゴミ屋敷問題」が頭に浮かびます。家屋と庭はゴミで溢れて生活スペースがなくなり、路上生活を余儀なくされる例すらあります。当然、近隣住民は、迷惑がったり心配したり。ところが、当の本人はいっこうに意に介しませんから、本当に困ったものです。
しかし、ある事例検討会で、このゴミ屋敷の事例について、若手の行政職員の方が「レンタル倉庫を使って、本人のいう宝(はた目にはゴミ)をとっておく方法を活用できないか」と閃きました。この発想は、「類まれなるゴミをとっておく能力を有効活用しよう」と言うに等しく、文字通り「一般的な発想を超えて難関を突破する」ブレーク・スルーなのかもしれません。
確かに、一流ホテルはおしなべて、客の捨てたゴミを1年間くらいは取っておき、客が誤って重要な物品を捨てても、探し出せるような安全策をとっています。そして、私たちは、テレビ番組などで、こうしたエピソードを知り「さすが、一流ホテル!」といって感嘆するくらいですから。
また、レンタル倉庫を使う対応アイデアの成否は、私が自分の考えを進めるうえでの重要なヒントをくれる予感がします。というのも、私は、ゴミ屋敷にまつわるこれまでの報道から、動線を確保している場合と確保していない場合があるように感じてきたからです。
つまり、前者のゴミ集めは、籠城するための築城手段であり、後者では、ゴミ集め自体が目的であるように思いますから、レンタル倉庫作戦は、後者には有効だと考えるからです。
ところで、虐待事例への対応を考えるとき、同様のブレーク・スルーが求められることは少なくありません。対応チーム内で意見が分かれ、支援が足踏み状態に陥る例などは、その典型ではないでしょうか。
こうしたときのブレーク・スルーの一つは、北風対応メンバーと太陽対応メンバーにチームを二分する方法です。たとえば、「あなたが行っているのは虐待ですから、やめて下さい」と、対立的な対応するメンバーと、虐待のことには触れず、(虐待しなくても済むように)虐待者の抱える問題解決を支援します」というメンバーに二分します。
支援展開はよりダイナミックになり、虐待者には「ツンデレ効果」をもたらします。また、対応者は、自分の信じるところにそって行動できますから、「心ならずもこうしています」という気持ちを相手に読まれ、支援の実効性を下げるようなことも避けられます。
こう考えると、ブレーク・スルーを目指すことは、虐待の当事者への対応のみならず、多専門職・多機関間協働の対応チームに参加する際の、重要な心得だと言えます。換言すれば、「自分の意見を通すことより、他者をどう活かすかに腐心した方が、結果はよろしい」という教訓なのかもしれません。
「ブレーク・スルーだってば!」