梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
浴衣の裾をはだけて卓球をしましょう!
前回、事例の文脈を共有できる要約の方法を考えていると書きました。私は、その方法として有力なのは、パラグラフライティングではなかと考えています。とても分かりやすい文章作成の方法だと思うからです。
私はいつも、パラグラフライティングを意識し、かつ、コンパクトにA5用紙に収まるよう、事例を物語として要約することを心がけています。
具体的には、文章の基本単位である「パラグラフ(段落)」を、そのパラグラフで主張したいことの要約である「トピック・センテンス」と、その根拠である「サポーティング・センテンス」と、結論である「コンクルージョン・センテンス」という3要素で構成されるようにします。
まず、トピック・センテンスでは、誰の誰に対する虐待をどう支援してどうなったか、ことの顛末を記します。つぎに、サポーティング・センテンスでは、(1)誰の誰に対する虐待はどんなものか、(2)緊急性と虐待の判断、(3)発生の仕組みの見立てと支援機序、(4)実際の支援展開と経過を記します。そして、コンクルージョン・センテンスでは、結果を記します。
家族構成図、文章40字×15行以内程度、そしてメモ欄を合わせてA4紙1枚に収めると見栄えも良いと思いますが、私は、パラグラフを構成する3要素の特性を考え、行数の目安を以下のようにしています。
トピック・センテンスは、なるべく短くしたいところですが、あれこれ盛り込まないといけないので2行程度にし、コンクルージョン・センテンスは潔く1行にします。そして、最も長くなるサポート・センテンスは残りの12行を使います。
もちろん、私はこの方法を常に厳格に守っているというわけではありませんが、「分かりやすさ」にだけは拘りたいと思っています。自分の考えを整理するにしても、相手に何かを伝えるにしても、分かりにくいのでは、それこそ話にならないからです。
昔は、温泉旅館に卓球台はつきもので、「いざ勝負!」とばかりに、浴衣の裾をはだけてゲームに興じたものですが、この卓球について考えてみると、文章の「分かりやすさ」に通じる面白いことに気づきます。
それは、卓球が上手くなるには、相手を打ち負かすことより、ラリー(連続してボールを打ち合う)練習を積まなければならない点です。
相手を打ち負かしたいと思えば思うほど、相手を打ち負かさないことを徹底的に反復練習しないといけませんし、本気で相手を打ち負かそうとしなければ、反復練習には身が入らないのですから、皮肉というか何というか。
ラリーを「連携」に置き換えると、長続きのコツは、コミュニケーション上の「分かりやすさ」に他なりません。そして、主張や説得や説明を本気でしたいのなら、分かりやすさのうえに成立する連携を、徹底的に反復練習せねばなりませんし、主張も説得も説明も本気でしようとしないなら、相手に迎合するばかりで、いつまでたっても主張も説得も説明も上達はしません。