梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
高検の貢献
児童虐待は、24年連続で増えており、昨年度は9万件に迫る勢いです。虐待問題は世を映す鏡だと言われますから、私たちの社会は一体どうなっているのか心配になります。そうしたなか、高松の高等検察庁の「起訴ありきではなく子どもの健全育成を踏まえて捜査を行う」という方針転換が注目されています。
具体的な工夫として、第一に、検察官が聞き取りを1回の面接で終えることにより被虐待児の負担を減らす「司法面接」を行い、第二に、児童相談所や病院や学校など関係機関が地方検察庁に集まり、刑事処分に関するカンファレンスを行い、第三に、刑事処分後も関係機関が役割分担をして親子関係のフォロー・アップを行います。
これらの工夫によって、「家族の再構築」を優先する不起訴や起訴猶予が増えたり、執行猶予判決に際して保護観察に「暴力防止プログラムを受講する」条件をつける米国スタイルなどが増えたりしたそうです。そして、起訴猶予にした親を後から起訴し直す例はないそうですから、工夫は功を奏していると言えます。
証拠収集と立証のプロである検察が加わることで、虐待防止のネットワークの多専門職・多機関間協働は促進され、より実効ある子どもの健全育成支援が行えるようになったのではないでしょうか。
ところで、連携を意識するのは会議のときだけ、という人はいないでしょうか。そうなると、自分たちの立場を守ることに終始しやすくなります。何故なら、チームアプローチの前提となる、関係者の信頼関係の構築がお留守になっているからです。
これでは、一つの目標に向かい、電話一本で話が通じる間柄のメンバーが、役割分担をして支援展開するのは難しくなります。
もっともチームアプローチとは言っても、実際には、同じメンバーでことにあたるというより、事例ごとに異なるメンバーでことにあたることが多くなりますから、会議のときだけ連携を意識することになっても、やむを得ない部分もあります。
また、関係者同士の信頼関係の構築は、「地ならし」などとも呼ばれ、ベテランなら行って当たり前のことですが、個人的に行うには限界もあります。
そこで、テレビ番組や旅行の企画で人気のある「大人の社会科見学」のように、他のメンバーの仕事ぶりを知ることのできるイベントが企画されると良いと思います。 関係者間が「私たちの世界」を構築する良いきっかけになり(「私の世界、あなたの世界、そして私たちの世界」)、支援展開のスピードアップや実効性の向上が見込めるからです。
さらに進めて、互いのノウハウを学び合う、クロストレーニング(「事例検証という学習スタイル」)も企画したいですし、互いのディシプリン(ここでは「その専門分野における規律」の意味)も学びあえるイベントも行いたいところです。冒頭でご紹介した検察の方針転換は、ディシプリンの変換に他なりませんし、それがあったればこそ、成果を挙げることができたのですから。
関係者が集まり「虐待防止ワークショップ」などを催せば、実務上大いに役立ちますし、何より楽しそうです。儀式とも言える慣習的な機関同士のお付き合いを否定するつもりはありませんが、実務的に役立つことを優先し、トップリーダーが二流ホテルに泊まることを恥じる前に、フォロワー同士の連携の悪さを恥じるようにしたいものです。
「貴方がはじめたのは、冷やし中華でしょう?」