梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
日本流愛のカタチ
米国の非営利団体が主催する、2016年の国際的公告コンペティション「One show」で、「偏見や差別」をテーマした作品が金賞を受賞しました。わが国でも障害者差別解消法が施行されたこともあり、興味深く視聴しました。
この「Love has no label;愛にラベルは関係ない」という作品は、まず、大きなスクリーンに、レントゲン写真のような姿で動きまわる人々が映しだされた後、素の本人たちがスクリーン裏から登場してきます。
レントゲン写真の二人がハグをしてキスをした後、素の同性愛カップルが登場し、スクリーンには「Love has no gender;愛に性別は関係ない」の文字が表示されるというように、です。
他にも、「Love has no disability;愛に障がいは関係ない」、「Love has no race;愛に人種は関係ない」、「Love has no age;愛に年齢は関係ない」、「Love has no religion;愛に宗教は関係ない」など、偏見や差別は無用だという「声なき叫び」が演出されています。
私は、何故か「円空仏」を連想しました。声高に愛を叫ばない日本人だからかもしれません。「声なき叫びは察するもの」というところでしょうか。
円空は、江戸時代前期の僧で、全国を巡り木彫の仏像「円空仏」12万体を彫りました。初期の仏像には背面と土台があって、いかにも仏様然とした容貌ですが、時とともに、背面も土台もない簡素な作風に変化していきます。
沢山彫って多くの人々を救うための作風変化と伝えられていますが、どの仏像も個性的な表情をしています。ナタやノミの大胆な使いこなしによる造形法は、何だか「型より入りて型を破る」のお手本のようです。
一般社団法人 岐阜県観光連盟様のホームページ「ぎふの旅ガイド」で、いくつも写真が見られますが、私には、円空の造形は「自分の思い描く仏像を彫る」というより「木に宿る仏を(察して)彫り出す」作業ではなかったのかと思えます。だからこそ、朽ちかけた木や節だらけの木を用いてさえ仏像を彫ったのではないでしょうか。
私は、この姿勢こそ、対人援助者に求められる姿勢そのものではないかと考えます。表面に囚われず、声なき叫びに耳を傾けるというわけですが、もっと具体的に対人援助者の理想像を記した詩があります。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」(青空文庫:図書カード:No.45630)です。もっとも、私自身は、目指す理想には程遠いと言わざるを得ませんが。
というのも、「雨にも風にも負けて、暑さ寒さに弱く、欲にまみれ、すぐにキレ、暴飲暴食を繰り返し、あらゆることで自分を第一に考え、いつも早とちりで、都合の悪いことはみな忘れ、広いに庭の大きな家に住みたがり、老病死を忌み嫌い、喧嘩や訴訟への覗き見根性は抑えられず、自分に関係のない天災は傍観し、そのくせ、皆から愛されて褒められたい」からです。
余りに耳が痛いので、岩手県社会福祉事業団様から、今年も虐待防止研修の講師としてお呼び頂いたのをこれ幸いと(「雨ニモマケズ 調子二モノラズ」)、宮沢賢治を育んだ地の人々に肖(あやか)ってきたいと思います。