梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
奥の手は体外離脱!?
妻が、「日本の歴史を学び直したいから、良い本はないか」と探していました。私は、協力することにし、とりあえずネットで調べてみると、意外にも小中学生向けの本が充実していてビックリ。漫画仕立てのものもあり興味をひかれ、何はともあれ現物を見ようと本屋さんに足を運びました。
すると、ズラリと並んだ本はみな分かり易くて二度ビックリ。日本史は、日本人を主人公とする壮大な物語ですが、どの本も物語の流れがつかみ易く、今の子どもたちを羨ましく思いました。
流れが分かりやすいと、歴史が非常に身近なものになります。その時代を生きた人々の息遣いまでもが感じられるとなおさらで、立志伝中の人々のジェラシーや子供っぽさに触れると痛快ですらあります。
「謀反を起こした大きな動機は風貌を馬鹿にされたこと」と思われる節があると、「後世に名を残す武将のなんと器の小さいことよ」と、思わず吹き出しそうです。何より、謀反という客観的事実と、馬鹿にされた武将の主観的事実が、不可分一体となり訴えかけてくる迫力があります。
もちろん、歴史認識は人によって異なります。それは虐待の問題も同じことで、虐待者の見方、被虐待者の見方、支援者の見方、地域に人々の見方などさまざまです。ですから、真実は一つの筈の社会的出来事はみな、幾つもの見方に引っ張られるようにして「存在する」というのが、本当の姿なのかもしれません。
しかし、私たちには、社会的出来事を報道というレンズを通して眺めているだけなのに、あたかも歴史の生き証人気取りでいるようなところがあります。しかも、この傾向は、報道のリアルタイム性が増すにつれて強まります。
未来ある若者の命が数多く失われたバスの事故、著名なアイドルグループの解散騒動、呆れるばかりの廃棄食品の不正転売、複雑に絡み激化する中東情勢、映画的とも言える麻薬王の脱獄劇、隣国での史上初の女性総統の誕生など、果たして、私たちはこうした社会的出来事の「本当の姿」を見ている、と言えるのでしょうか。
知らず知らずのうちに、「判官びいき」や「付和雷同」をして、偏った捉え方になってはいるのではないか、といささか自信がなくなります。本来なら、自分で考えて、判断できる強い主体性が欲しいところですが、主体性の強化もそう容易くはありません。
そこで、とっておきの方法をご紹介します。それは、臨死体験者が、自分が天井に浮かびあがり、ベッドで横たわる自身を相当なリアリティ―を持って眺めている、体外離脱現象のようなイメージで、事象をみてみることです。
虐待対応の研修のなかで、情報収集や事前評価の演習に際して、参加者に「資料に書かれた内容から動画を思い浮かべる」ように促すことがありますが、これは、「当事者や自分以外の支援者それぞれの立場から事象を眺める」体験をして欲しいという目論見です。
そうすれば、自分も含めた「本当の姿」が見えてくるという寸法ですが、想像以上に効果的なので、是非一度「体外離脱」をご体験下さい。