梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
国の対応状況調査結果から:養護者による高齢者虐待(その3)
四つめ目は、事例対応の方法についてですが、今回も、まずは調査結果から。
- ◯大抵は、通報受理~事実確認~介入は、即日ないし翌日されているのですが、数週間から数か月と、長くかかるケースも少なくありません。
- ◯対応の内容と終結:分離は34.3%、非分離53.9%であり、深刻度の高いケースほど分離される傾向にあります。非分離の場合、約半数で養護者への助言指導、約3割でケアプラン見直しがなされ、約2割5分は経過観察のみになっています。また、終結の顛末は、入院・入所46.7%、本人の死亡17.5%、在宅で安定17.1%などです。
これらの背景として、まずは、一時的な保護場所の未確保など、体制の未整備を指摘できるのですが、チーム対応に必要不可欠な「連携」上の困難も見逃せません。「上手く連携できない」という話を、本当によく耳にするからです。
具体的には、行政と地域包括支援センター、地域包括支援センターとケアマネジャーや民生委員の間などで、「無理な要求ばかりする!」とか「動いてくれない!」と、皆、不満を募らせているようなケースです。
疎遠な関係は対立しやすいので、支援者間の信頼関係構築が先決なのかもしれませんが、詳しくみると、情報共有、連絡調整、アドバイスなどでは連携しやすく、緊急性や虐待、立入り調査や措置といった「判断」は食い違い易いようで、利害の対立し易さの違いであるように思います。
そこで、解決策を考えてみました。
一つは、「判断」の食い違いの解消には、判例集的な物が有効だという点です。これがあれば、判断の迅速化にも役立ちます。
二つは、多専門職・多機関間協働による事例対応の「標準化」です。マニュアルは、明文化された「標準」ですが、本来なら、単発的な物ではなく、継続的な事例検討を踏まえた改訂版を毎年作成・配布するように、システム化したいところです。
年々蓄積される事例の実態と対応実情の情報を集約し、無駄を省き新たなノウハウは加え、精緻化していくことにこそ「標準化」の真価があるからです。
無駄な部分の多いフロー図や様式は簡素化する一方、一言では曖昧過ぎる「見守り」を、何を目的にどのような方法で行うか詳しく示せば、お役立ち度もグンとアップ、というわけです。
三つは、分野横断的なネットワークの構築とそこでの議論の展開です。判例集的な物やマニュアルも、児童虐待、DV、障害者虐待はむろん、医療や司法等のノウハウにも目が向きますから、多くを学びはるかに良い物ができると思います。
四つは、支援者の体系的な養成です。確かに、標準化システムを構築すれば、事例のタイプ分けと適切な対応方法は明らかになると思います。しかし、それでもなお、実践するには練習は必要不可欠ですし、数多の支援者を養成するとなれば、養成自体を体系化せねばなりません。
この点で、「型より入りて型を破る」を地でいく落語の教育システムは、良いお手本なのではないでしょうか。演目は担当事例とマニュアル、稽古は個別のスーパービジョンと考えられるからです。
しかし、一人でも多くの虐待対応の「真打ち」を輩出するには、どうすれば良いのでしょうか。
「おさらい(お復習)の仕方が半端じゃないらしいよ」