梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
ウソぴょん、コダイ、マギラワシ
息をするように他者を動かそうとする私たち
つい最近、気になるニュースがありました。小学6年生が、複数の同級生から「価値が上がる」などと言われて記念メダルや外貨を買い取ったものの、実際にはそれほどの価値はなく、計約93万円をだまし取られたというニュースです。
子どもの親から相談を受けた警察は詐欺の疑いもあるとして捜査していますが、学校は、問題が発覚した時期が受験シーズンでもあり、根拠のない話で生徒は刺激できないと判断して、事実関係を確認していなかったそうです。
しかし、「財産に重大な被害が生じている」と訴えている以上、「犯罪行為」やいじめ防止対策推進法のいう「重大事態」を疑い、第三者による調査や関係する児童や保護者への対応など、行動を起こして然るべきだと思います。
金融教育など他にもツッコミどころはありますが、それはさておき、ここでは小学生の頃から「自分の思い通りに他者を動そうとし、その方法も心得ている」点に注目したいと思います。
むろん用いる方法は社会的に容認されるものでないと困ります。しかし、私たちにとって、自分の思い通りに他者を動かそうとするのは、息をするように自然なことなので、用いる方法の是非を考えることがお留守になり易いのではないでしょうか。
つまり、「今の呼吸は良かった」とか「今の呼吸は駄目だった」などとは考えないように、用いる方法の是非を考えずに他者を動かそうとして、足をすくわれるわけです。そこで思い浮かぶのは「インティマシー・コーディネーター」の仕事です。
ウソぴょん、コダイ(誇大)、マギラワシ
日本に2人しかいない公認インティマシー・コーディネーターの1人、浅田智穂氏によれば、ヌードや性的な描写のある場面の撮影に際して、俳優たちの心身両面の安心安全を確保しつつ、監督の意向も最大限に発揮されるよう支援する仕事だそうです。
脚本には細かいことまで書かれてないことが多いため、脚本をチェックして露出がどの程度のものになるのか確かめたり、監督に対して、現場の雰囲気でキスシーンになる可能性の有無を尋ねたり、細心の注意をはらって事前確認をするといいます。
それもこれも、俳優と監督など、関係者の納得を得るためなのですが、米国では、米国の俳優組合がペナルティー付きのルールを事細かく示しているそうです。ところが、わが国には基本的なルールさえないといいます。
もっとも、いきなり詳細なルールを設けるのは難しいので、浅田氏は俳優の尊厳が最低限守られる3つのルールを案出したそうです。詳細は別稿に譲りますが、ルールをシンプルにして実効性を上げるという発想、大いに見習いたいところです。
基準がシンプルなら、他者を動かす方法の是非もすぐに判断できて、お金を搾取される小学生も随分減らせそうです。そう言えば、日本広告審査機構の「駄目な広告」の判断基準も「嘘・大げさ・紛らわしい」と、いたってシンプルです。
「これで詐欺対策の強化を!」
「まったくあなた方ときたら…」