梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
国の対応状況調査結果から:従事者による高齢者虐待(その2)
前回に続き、従事者による高齢者虐待について、平成25年度高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査(以下、対応状況調査)の結果を読み解いていきます。
第4の課題は、虐待発生の仕組みと対応の機序を解明することです。
一つは、虐待の蔓延性についてです。たとえば、同時多発している例があるとか、虐待のあった施設・事業所の25%には、サービス提供についての指導歴があるといったことです。こうなると、虐待の蔓延には、組織のあり方が関与している気がしてきます。
二つは、被虐待者についてです。94%は認知症自立度II以上ですから、認知症との関連は深いのですが、認知症が重度だと、身体的虐待の割合が高くなり、心理的虐待の割合は低くなります。私には、この背景として「言って分からないから力でねじ伏せる」ような筋立てが見える気がします。
三つは、虐待者についてです。最も多いのは介護職ですが、看護職や管理職や管理者が虐待する場合もあります。職能や職位に囚われずに人を育てる視点が必要なのだと思います。もっとも、男性と29歳未満(男女とも)の割合が高いので、配慮したいところです。
また、虐待の発生要因と考えられる問題のツートップは、「教育・知識・介護技術等(以下、教育等)」の66%と、「職員のストレス・感情コントロール(以下、自制)」の26%です(複数解答)。
私には、この結果が、養介護のプロの養成に難があることを示しているように思えます。つまり、プロとして半人前であるため、思い込みや勉強不足から「言って分からないから力でねじ伏せる」になりやすい、というわけです。
しかし、介護業界の人手不足を考えると、一人前のプロを、早く安く養成しなければならないのですから、相当な工夫が必要です。
四つは、虐待の行為類型についてです。気になるのは、虐待と判断される身体拘束が23%(別掲)もあることです。身体拘束は、「教育等」や「倫理・理念」に問題がある場合、含まれる割合が高いのですが、原則禁止となってから10数年経つのに、この状況です。身体拘束を、高齢者虐待防止法ないし防止対策のなかに、きちんと位置づける必要があると思います。
また、介護保険3施設では、「自制」の割合が高く、「教育等」の割合が低くなっています。一方、居宅系サービスでは、この傾向は逆転していますし、虐待の種類も大半は経済的虐待です。つまり、入所系と居宅系では虐待の様相が異なるわけです。よって、従事者教育の際は、業種や業態の違いを考慮することで、実効性を向上できると思います。
以上を踏まえたうえで、最後に、いくつか付記しておきたいと思います。
第一に、従事者による虐待は、本来あってはならないのですから、一次予防に力を注がねばなりなせん。そのために「不適切であるなら、それはすでにケアにあらず」を基本に据えると効果的だと思います。
第二に、啓発や教育では、虐待防止策であれ推奨されるケアであれ、根拠も含めて伝えることが大切だと思います。
お手軽ハウツーも悪くはありませんが、プロとしての自分の行動について、その根拠をきちんと理解していないことが、不適切な行動につながるからです。
第三に、専門の委員会を設置しているという施設の話も聞きますが、一般的には、啓発や教育に割ける資源は潤沢ではなく、施設や事業所単位で行えることにも限界があるという点です。
行政や各種団体による体系的な取組みや、情報通報技術の積極的な活用を期待したいと思います。