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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

虐待と「親性」


親性?

 最近、「親性(おやせい)」という言葉があると知り、目からウロコが落ちる思いがしました。この親性とは、人間の脳の発達に由来していて、私たちにお馴染みの「母性」や「父性」とはかなり異なるものだといいますから、本当にビックリです。

 周知のとおり、私たちは長らく「子育ては母親の母性に負うところが大きいので母親が担うもの」と考えてきました。しかし、どうやらそれは誤った見方のようなのです。これを明らかにしたのは、京都大学教育学研究科の明和政子教授らの研究などです。

 たとえば、新米パパも新米ママも、親になる前に親戚や友人の子どもと触れ合った人は100%、親性(を司どる)脳がよく発達します。子どもがいない人でも、子どもと触れ合う経験により親性脳の発達が促されるそうなのです。つまり、脳の特定の場所は、子育て経験を積むことにより性差に限らず発達するので、母性や父性と区別して「親性」と呼ぶのだといいます。

 親性とは、端的に言えば「親が子どもを養育しようとする性質やスキル」のことですから、本質的には養育と同じ特性を持つ「養介護」もやはり、この親性脳と関係しているように思えてきます。しかも、親性を発揮する脳の場所は特定されていると聞けば、興味津々にならざるを得ません。

 また、親性脳の場所は、空腹や不安や恐れなど、人間にとってネガティブな情動を司る場所の近いところにあり、両者は抑制し合う関係にあるようです。どちらか一方が活発になると、もう片方は不活発になる、というわけです。

脳研究が開く虐待者支援への道

 確かに、私もテレビ番組で、動物実験の様子を観たことがあり、親性脳を人工的に抑制された親ネズミは途端に、育児放棄をしたり子ネズミを攻撃したりしはじめることを記憶しています。脳のネガティブな情動を司る場所が活発に活動する一方で、親性能の活動は鈍ってしまうからです。

 だとすれば、虐待者たちは皆この状態に陥っているのかもしれず、このブログでも度々述べてきた、自己肯定感の低い人が虐待者になり易いことについて、視覚的に把握できるようになるかもしれません。自己肯定感の低下を招くネガティブな情動を、虐待者の不活発な親性脳を様子を可視化して確認できるのかもしれないからです。

 そうであれば、虐待者支援の道が一気に開けてきそうな期待が高まります。実際、明和先生の研究室では、AIを活用して、その人の親性脳の発達に合わせてタスクを示し、そのタスクを遂行したら褒めてモチベーションを高める、そんなプログラムを開発中だそうです。

 虐待者支援は、事例ごとの個別性が高く、また、介入拒否も多いため、オーダーメイドする必要があります。しかし、自分の脳の特性に合わせて、自分の努力の結果で親性脳がどの程度発達したのか可視化できるようなプログラムなら、このオーダーメイドに対応することもできそうです。

「目に入れても痛くない!」
「ウチは親性過剰…」