梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
-
日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
新人教育の近道はどっち?
新人教育の悩ましさ
何気なくテレビを見ていたら、ある猿まわし団体の芸人養成の様子を伝えていました。そして、新人教育のあり方は、現在と4、50年前とでは大きく異なることに、とても興味をひかれました。新人が一人前になるまでの時間がまるで違うのです。
かつては、猿の調教からはじめて、5年、10年と修行を積んでから大道芸人になったのに対し、現在では、ある程度調教された猿とコンビを組み、1、2年で大道芸人になるそうです。いかにも世界が凄いスピードで変化している時代らしい話です。
私は、介護職や相談職の新人教育についても、よく似た状況にあると思いましたが、「新人を短期間のうちに一人前に育てるノウハウはあるか」と問われたら、胸を張って「ある」とは答えられませんから、改めてこの課題の大きさを認識しました。
件の猿まわし団体にとっても大きな課題なのだといいます。そして実際、新人が舞台上で、猿が指示に従わないことに業を煮やして叩いてしまい、その動画がSNSで拡散して「動物虐待」だとして大バッシングを受けたこともあるそうです。
「ワンオペの悲劇」で取り上げた、焦って負のスパイラルに陥った事例とよく似ています。おそらく、猿まわし団体でも、新人の止まった思考を再起動させるべく、再教育を施していくのでしょう。
近道はどっち?
しかし、ここではまた別の観点から、新人教育の鍵を探してみたいと思い、見出したのは「ハードスキル獲得の期間短縮」です。ハードスキルは、徹底的な反復によるトライ・アンド・エラーにより、丁度良い「加減」を体得するのですから、これを短縮する近道はないだろうか、と考えました。
猿まわしなら、かつては調教というトライ・アンド・エラーを通して、猿との関係を構築するというハードスキルを体得していました。しかし、現在はそこに時間をかけにくいのですから、この部分の解消こそがキモになる、という目論見です。
そして解消できないと、新人は、自分の能力を過信して「思い上がり」、相手に対して指示的、命令的、支配的になったり、実現できない理想に囚われるあまり、相手のみならず自分までも追い込んで破滅したりしかねません。
やはり大切なのは「共感力」であり、「自分ならどう思うか」ではなく「相手ならどう思うか」に思いを馳せたうえで、相手を活かそうとすることにあるようです。これが出来れば、相手を操れるという思い上がりや理想への囚われ故の焦りも、大いに低減できます。
ちなみに私は、共感力を高めるために、まず頭なのなかで相手を映像化し、相手に憑依するイメージで追体験してみます。そして、相手のこれまでの人生をたどってみるのですが、存外効果的です。ですから、こうしたイメージ・トレーニングは、あるいは近道の1つかもしれません。
「暑いから近道しましょう」
「近道より、靴を下さい!」