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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

異次元の虐待防止対策?


異次元の少子化対策

 6月13日、内閣府から「こども未来戦略方針」が発表され、いわゆる「異次元の少子化対策」の具体的な中身が示されました。2024年度からの3年間、何と年間3兆円台半ばに及ぶ巨額を投じて集中的に取り組んでいくのだと言います。

 具体的には、「保育料の無償化や減免の拡充」、「子どもの医療費の無料化」、「子どもの預かりサービスの拡充」、「共働き家庭への支援」、「子育てしやすい社会環境の整備」、「子どもの権利の尊重」、「子育てに関する意識改革」などが行われるといいます。

 児童虐待の防止にも役立ちそうな施策が並んでいるので、虐待問題に取り組む者としては期待したくなります。しかし、財政的な課題や「本当に社会全体の意識を変えられるのか」という疑問もあるため、効果が限定的にならないよう祈るばかりです。

対策の文脈

 もっとも、「こども未来戦略方針」は少子化の要因を「経済的な不安」と「社会的な孤立」と「子育ての負担」に求めていることは気になります。未婚化と晩婚化の影響が大きいというのが通説なので、何がどうつながるのか分かりにくいからです。

 どうしても「子育て支援策」ではあっても「少子化対策」としては弱いように感じてしまいます。しかし、地域福祉計画などの行政計画をみても、目標の設定や目標達成の手段について、疑問が残ることは稀ではなく、限界があるのかもしれません。

 要するに、「OODAループ」の、観察と状況判断・方向づけの文脈の問題なのですが、扱う問題の全てについて、この文脈を容易につなげられるとは限りません。未婚化と晩婚化についても、要因はあれこれ思い浮かびますから、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な文脈になり易いのでしょう。

虐待の防止対策の文脈

 そこで、「少子化対策のふり見て虐待の防止対策のふり直せ」ではありませんが、虐待の防止対策の文脈を考えてみました。すると、行き着いたのは夫婦、親子、同胞といった「家族の健康化」でした。意外なことに、これは従事者の虐待者にもあてはまります。

 ですから、私が「異次元の虐待防止対策」を考えるなら、それは「家族の健康化対策」なのだと言えます。むろんここで言う「健康」は、WHO憲章の定義「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(日本WHO協会訳)」のことを意味しています。

 そして、対策の文脈としては「家族の皆を健康にできたなら虐待は発生しない」ということになります。あるいは、虐待の発生は、進化論でいう自然淘汰(自然選択)によって滅んでしまうような、不健康な状態なのだ、と言えるのかもしれません。実際、虐待事例はいずれも破滅的です。

「家族関係またD判定だぁ…」
「要精密検査ですネ」