梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
聞き上手は七難を隠します。しかし…
今は昔、ダメ相談職の梶川といふもの有りけり
相談職になって数ヶ月のフレッシュマンとお話する機会がありましました。お約束どおりに「自分は新人のときどうだったろう」と振り返ってみると、人の顔や名前や役割、場所や備品の在り処や手続きなど、覚えるだけで精一杯だった記憶があります。
仕事らしい仕事はしていないのですから、初仕事の記憶が「花見の席とり」しかないのも道理です。本業の相談にしても、体をなすようになるには、週1回のスーパービジョンを受け始めてから、ゆうに1年半はかかったと思います。
それまでは相当酷いものでした。沈黙を怖がり余計な話をしたり、自分の聞きたいことや言いたいことばかり話したり、と本当に散々でした。よくスーパーバイザーから「話す時間は、相手が9割、こちらは1割」と言われたものです。
また、スーパーバイザーの「はるかに年上のクライエントから『亡父と話せたように感じた』と言って貰えた」というエピソードを聞き、大いに勇気づけられもしました。ずっと年上のクライエントばかりで、私はかなり肩に力が入っていたからです。
人を見て法を説け
「聞き上手になると年齢差を超えられる」と知って救われたのを期に、「相手が9割、こちらは1割」を体現する聞き上手になろうと思い立ちました。そして、生来の怠け者のわりには随分と努力するようになりました。
そして、磨いたのが既にご紹介の「褒める・労う・教えて貰う・真似る・まとめる・役立つ何かをしてあげる」です。もっとも、相手が年齢や性別に拘っている場合には、そのことに配慮しないといけません。
とくに、相手が知らないことを教えたり、相手の間違いを指摘して修正を求めたりするときには、相手の神経を逆撫でし易いので要注意です。「年下から説教されるいわれはない!」とか「異性にそんな指摘をされたくない!」と逆ギレしかねません。
しかも、正論であるほどに相手は抗弁しにくいため、二次感情がより湧き易くなります。スピード違反のキップを切られて「他にもっとスピード出している奴がいるだろう。そっちを先に捕まえろよ!」などとキレている人などはこの典型です。
修行は続くよどこまでも
また、相手の地雷を踏んでしまうと、こちらを傷つけて一矢報いようとする人もいます。そのため、ご紹介した自衛策が必要になりますし、一人前になるために必要不可欠なことは、他にも山ほどあります。ですから、まさに修行の道は山あり谷ありです。
私も「事前評価(アセスメント)の方法:虐待発生の説明」、「分析倒れ」、「リスク要因を網羅的に把握する方法」、「長所・短所や強み・弱みの分析方法」に述べた山あり谷ありの40年を過ごしてもなお道半ばにいて、ゴールの気配すら感じません。
「これぞ修行の賜物!」
「相談の役に立ちますの?」