梶川義人の虐待相談の現場から
様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。
- プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)
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日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
虐待防止への投資と資金調達
WHOはかく語りき
侍ジャパンの活躍に触発されて海外に目を向けようと、WHOの「Tackling abuse of older people; Five priorities for the United Nations Decade of Healthy Ageing[2021-2030];高齢者虐待への取り組み-国連の健康長寿の10年(2121年~2030年)の5つの優先事項-」を読み返しました。
WHOは、政策立案者、研究者、国際機関や市民社会組織、政府の代表者などからのアドバイスのもと、課題を特定し、課題の優先順位をつけ、取り組むための5つの優先事項を抽出しています。最近このブログで取り上げたこともあり、つい「OODAループ」に照らしてみてしまいます。
ループでいうと、「アドバイスのもと」は「観察」、「課題の特定」は「状況判断」、「課題の優勢順位づけ」は「意思決定」、「5つの優先事項の抽出」は「行動」といった按配です。以下5つの優先事項を順にみていきますが、私はその順番や投資や資金調達にまで言及している点に興味をひかれました。
5つの優先事項
1.エイジズムと闘う:高齢者虐待の主要なリスク要因なのに、優先度が低く見積もられていると指摘し、制度的、対人的、あるいは高齢者自身の問題でそうなっていると分析したうえで、エイジズム撲滅キャンペーンの実施を勧めています。あるいはこれが本当の核心なのかもしれない、と思えてきます。
2.発生率やリスク関する良いデータを集める:良質なデータが不足しており、虐待問題の規模を測るための基礎である「発生率」や対策などの精度が上がらないことや、虐待のリスク要因や効果的な解決のヒントもつかみ切れていないことを指摘しています。私も常々同様に感じてきましたから無条件に納得です。
そして、カバーされていない虐待の形態(特殊詐欺など)もあるし、虐待の程度や支援の効果などについても不明なことが多いので、より明確で透明性のある定義や評価方法の開発が必要だとしています。そのために、より多くの国において調査研究を進める必要があるとしていますが、無論これにも納得です。
3.費用対効果の高い解決方法を開発して普及する:質の高い研究結果を根拠とする、有効な解決方法はほとんどないため、費用対効果をきちんと評価できる方法が必要だとしています。そしてこれは、続いて挙げられている投資や資金調達といった、経済的なことに触れる事項への伏線になっています。
4.投資事例を増やす:人権や道徳の観点から人に行動を促すだけでは限界があるものの、この問題によって失うコストや防止にかかる費用、防止により得られる利益などのデータが不足していることを指摘しています。そこで、虐待防止に投資して成功した事例を増やして「5.資金調達」につなげるように説いています。まさに「社会企業的な発想」であり、とても興味深く思います。
「虐待防止に投資しよう!」
「なんて良い人なの(泣)」