保育環境の課題と大切なこと
保育環境の課題と大切なこと
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1. 現在の日本の保育環境の課題
保育は環境を通して行われるものですが、環境の構成には皆さん四苦八苦しているのではないでしょうか? この苦心の背景には、次の要因が考えられます、
①固定観念や「枠」にとらわれがち
保育者は、無意識のうちに「保育室はこうあるべき」「おやつはこうあるべき」といった固定観念にとらわれ、子どもの視点や創造性を妨げてしまうことがあります。ある研究では、あらかじめ設定された空間の中で子どもたちがどのように活動しているかを客観的に捉える建築計画的な視点と、設定された空間の中でいかに豊かな保育を行うかに偏る保育現場の視点に二分されている傾向があると指摘されています。
「〜しなければならない」「〜してはダメ」のような規範が強くなり、考え方の「枠」が、時として不自由さを生み出してしまうことがあります。
また、空間、時間、目的、役割など、様々な「枠」にとらわれて、保育環境の探究が妨げられます。
空間の「枠」…活動場所が狭い、必要なモノがない
時間の「枠」…主活動の時間帯に偏重し、通園時間やおやつの時間といった「名もなき時間」を軽視してしまう
目的の「枠」…保育環境を子どもの行動や発達を促す「手段」として捉え、子どもがくつろぎ、安心して過ごせる場所としての機能を軽視してしまう
②多忙さから、環境構成に十分な時間や意識を割けない
保育者は、多数の子どもと向き合うだけでなく、書類作成や教材研究など多くの業務を抱えており、体力面、精神面で負荷がかかっています。労働環境の改善が課題視される昨今、保育者がホッとできる休憩室などを設けることが必要です。
③家庭や地域との連携が十分でない
子どもの育ちにかかわる「切れ目」として、誕生前後、就園前後、就学前後といったライフステージの節目で支援が途切れてしまうことが問題視されています。地域社会との連携は、あらゆる立場・分野の人々が連携し、子どもを支える社会を構築していくための重要なアクションとなりえます。
④子どもの発達や成長に合わせた柔軟な対応が難しい
年度替わりの際、クラス替えや環境の変化が、子どもの心理的な負担になることがあります。新年度の子どもの姿を見て、保護者が不安になることがあります。特に新年中児の保護者は、進級によって新クラスとなり、これまでの大好きな保育者、仲の良い友だち、1年間慣れ親しんだ保育室という環境から変化することに不安を感じます。
2. 保育環境で大切なこと
以上、課題の面から保育環境を考えてきました。ここでは、環境構成・環境整備について大切なことを考えます。
- 〇子どもの視点を大切にする
子どもの発達や興味、関心に合わせた環境構成を心がけ、子どもたちが主体的に遊びや活動に取り組めるようにすることが重要です。 - 〇固定観念や既成概念にとらわれない
保育環境に対する先入観や「枠」を柔軟に見直すことで、新たな発見や創造的な遊びが生まれる可能性があります。例えば、「保育室はこうあるべき」という固定観念を捨て、子どもたちの「〜したい」という気持ちを大切にすることで、保育室全体をくだものに見立てた遊びの空間を作り出すことができた事例もあります。 - 〇様々な要素を有機的に結びつけ、相互に関連させる
保育環境を構成する様々な要素は、互いに関連し合っています。これらの要素を個々に捉えるのではなく、相互のつながりを見通し、意図的に環境を操作することで、子どもの豊かな経験を促すことができます。 - 〇物理的な環境だけでなく、時間や温度、明暗、音なども考慮する
例えば、通園バスの時間を単なる移動時間と捉えるのではなく、子どもたちが社会環境を知り、興味や関心を育む豊かな時間と捉えることで、通園バスならではの環境構成が可能になります。 - 〇保育者自身が環境を積極的に楽しむ
保育者が活動を楽しみ、集中して取り組む姿を見せることで、子どもたちを魅了し、活動への意欲を高めることができます。 - 〇子どもを取り巻く様々な人々との連携を深める
それぞれの専門性や個性を活かし、互いに協力することで、より豊かな保育環境を創造することができます。 - 〇保護者との連携を密にする
保護者組織と協力し、園の文化を発信したり、保護者の意見を取り入れたりすることで、家庭と園が一体となった保育環境を構築することができます。 - 〇地域との連携を深める
地域の資源を活用したり、地域の人々と交流したりすることで、子どもたちの学びの機会を広げることができます。 - 〇「移行」の視点を取り入れる
年度替わりなど、環境が大きく変化する際には、変化を緩やかに進め、事前の準備や情報共有を丁寧に行うことで、子どもたちの心理的な負担を軽減することができます。 - 〇既存の保育環境にある魅力や価値を十分に味わう
新しいものを取り入れるだけでなく、すでにあるものに目を向け、その意味や可能性を再発見することで、より豊かな保育環境を創造することができます。 - 〇安心できる環境と挑戦できる環境のバランス
これらの要素を総合的に考慮し、それぞれの園の状況や子どもたちの特性に合わせて、柔軟に保育環境を構成していくことが重要です。
3. おすすめの本
最後に、環境構成を考えるうえでおすすめの本をご紹介します。
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『これまでの枠を超えれば「ワクワク」がみえてくる
空間・時間・人を拡げる 保育環境の構成』
編著者 境愛一郎(さかい・あいいちろう)
共立女子大学家政学部准教授、博士(教育学)。宮城学院女子大学助教を経て現職。著書に『保育環境における「境の場所」』(ナカニシヤ出版、2018 年)、『質的アプローチが拓く「協働型」園内研修をデザインする:保育者が育ち合うツールとしてのKJ法とTEM』(ミネルヴァ書房、2018 年)がある。
著者 栗原啓祥(くりはら・ひろあき)
認定こども園清心幼稚園(群馬県前橋市) 副園長。修士(教育学)。青山学院大学大学院教育人間科学研究科で学び、現在は、子どもが思いや想像を発揮し、さまざまなかかわりを通して創出する実践と環境を探求している。
著者 濱名潔(はまな・きよし)
認定こども園武庫愛の園幼稚園 法人本部 副本部長、博士(教育学)。保育現場での実践と理論の融合を目指し、園内研修のデザインや保育者の専門性向上に関する研究も行っている。
判型:AB
頁数:132頁
価格:2,420円(税込)
発行日:2025/3/1