失語症の人との上手な話し方
実用的なコミュニケーションの技術を紹介!
失語症の人はコミュニケーションの道具である言葉を思うように使えなくなるために、日常の何気ない会話が不自由になります。多くの方が職業や学業を続けられなくなりますし、趣味活動やそのほかの社会活動への参加も難しくなります。
一方で、近年、障害者をとりまく環境のほうがきちんと整えば、つまりバリアを取り除けば障害のある人も障害のない人と同じように社会に参加していけるのだ、というバリアフリーの考え方が普及してきました。コミュニケーション障害のある人が社会に参加するためには、コミュニケーションのバリアフリーが必要です。失語症の人とどうやってコミュニケーションをとったらよいのか。
この記事では、『三訂 失語症の人と話そう』(NPO法人 言語障害者の社会参加を支援するパートナーの会 和音)の一部を再編集して、失語症の方々とのコミュニケーションにおけるポイントをご紹介します。
失語症とは?
失語症とは、大脳の言語中枢が何らかの損傷を受けることによって、言語を操る能力に障害が残った状態をいいます。身体を動かすために必要な運動機能や感覚機能に対して、「物事に注意を向ける、集中力を保つ、感情をコントロールする、言語を操る、記憶する」などの機能を高次脳機能といい、その障害を高次脳機能障害とよびます。失語症も高次脳機能障害の一つです。
では、失語症とは具体的にどのような状態なのでしょうか。失語症とは大脳の言語中枢が損傷されたために起こる言語障害です。失語症になると、「話し言葉」だけでなく、言葉にかかわるすべての作業が難しくなります。
たとえば、AさんとBさんが旅行の計画を立てている場面を思い浮かべてみましょう。二人は旅行雑誌やインターネットの旅行サイトを見ながら、行きたい場所を選び日程を話し合い、予算を計算し、インターネットで申し込みました。
このような場面は日常的によくみられるものですが、このなかでも言葉にかかわる作業がたくさん行われています。旅行雑誌やインターネットの旅行サイトから場所・日程等を読み取る「読む」作業、二人で話し合う「話す」「聞く」作業、読み取った内容や話し合った内容を書き留めたり、インターネットでの検索や申し込みでキーボードに文字を入力する「書く」作業、予算を「計算」する作業が含まれています。失語症になるとこのような「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」のすべての能力が、程度の差はあれ障害されるのです。
しかし、言語障害の症状や重さは一様ではなく、大脳の損傷の場所と大きさによって違いが生じます。たどたどしい話し方になることもあれば、なめらかに話すけれども言い誤りが多いこともあります。後遺症として現れる言語症状は個人差が大きく、人によってさまざまです。
失語症の人とのコミュニケーションにおけるポイント
失語症の人と話すとき、聞き取りが難しい失語症の人にはどのように話せばよいのか、話すのが苦手な失語症の人はどのように助ければよいのかと思うかもしれません。ここでは失語症の人々とのコミュニケーションで、大切にすべきポイントをご紹介いたします。
とはいえ、失語症の人と会話をするときは、何よりも、その思いを知りたいと思う気持ちが大切です。失語症の人が必ずもっている思いをなんとかして知りたいという真剣な姿勢がなければ、どのような知識も技術も空回りしてしまうのです。以下は、相手の聞き方や話し方、援助のタイミングなど私たちが工夫できそうなポイントです。ぜひ心がけてみましょう。
[基本姿勢]
・子ども扱いしない
・会話は落ち着いた雰囲気で
・お互いの表情がわかるような位置や視線で
・相手の名前を呼んで、顔を見て話す
[会話の基本]
・ゆっくり、はっきりと話す
・短く、わかりやすい言葉で話す
・繰り返し言ってみる
・先回りしないで、しばらく待つ
・話題を急に変えない
[テクニックと工夫]
・「はい」「いいえ」で答えられる質問をする
・用意された答えの中から選んでもらう
・他の言葉で言い換える
・表情や身ぶりを添えて話す
・実物を見せる
・文字を書いて示す
・絵や地図を示す
・誤りは訂正しない
実際の会話では、これらの方法を、相手の症状やそのときの状況に合わせて、組み合わせて使うことになります。あまりたくさんあって覚えきれないと思った人もいるかもしれません。けれども、まず大切なことは「相手の思いを知りたいという心」と「会話を楽しむ」ということです。会話に慣れるに従って、細かい配慮ができるようになることでしょう。
『三訂 失語症の人と話そう』では、以上のポイントを踏まえて、実際に練習問題に取り組んで、失語症の人との上手なコミュニケーションの取り方をステップに沿って身に付けることができます。
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