ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第13回 在宅介護を思い出しながら、 「やさしい献立」を食べてみました
食べられるとき、こまめに栄養補給するために
おやつでの栄養補給によいと思えたので、『なめらか野菜 にんじん(写真 D)』『いちごゼリー(写真 E)』『すりおろし果実りんご(写真 F)』を凍らせてみました((3)(4)対応 凍らせる前の状態と共に写真を撮っています)。
闘病中、氷をほしがる人が少なくないようです。私が関わった数名だけでなく、「氷が食べたい」というオーダーがあったと、方々で耳にしました。冷たさ、ゆっくり溶けていく感じなどがよいのでしょうか。はっきりとした理由は分かりません。おいしい氷は、口に含んでなめているうちに、すこし食欲が喚起するという作用もあるようでした。
せっかく口に入れるなら、すこしでも栄養になるよう生搾り野菜ジュースやミキサーにかけたスイカ、ブドウの搾り汁など、飽きないように変化をつけて凍らせていましたので、そうしたラインナップに『なめらか野菜』や、デザート類を入れられたら楽しみが増えると思いました。手間も軽減できます。
いずれも問題なく凍り、なめらかな口どけです。『なめらか野菜』はオシャレな野菜のアイスクリーム風味、デザート類はおいしい氷菓になりました。
食べられる量が減ると、低栄養を防ぐなど治療の一環で栄養補助ドリンクが出ることが多いかと思います。私が看ていたケースでは「エンシュア」(または「プロシュア」)が毎食1缶(1パック)、出ていました。食べられる量が減っても、コレが飲みきれたらちょっと安心。どうしても食べられない日もあるので、そういう気持ちにもなります。それでも、間食ででも、いろいろな種類の食べ物を食べてほしいと思ったものですが、凍らせた『なめらか野菜』や『すりおろし果実りんご』などはうってつけではないかと思います。
※食べることが難しいケースでは、冷たいもの、温かいもの(体温±20度)が嚥下反射を促す場合がありますが、冷たいもの、温かいものが食べられない(常温がよい)場合もあります。つまり氷は、そうしたケースではもってのほかです。
一緒にごはんを食べる幸せを味わう
入院しているときには、なかなか一緒に食事はとれません。それでも「何か買ってきて、一緒に食べよう」とよく言われたものです。毎食一人で食べるのは味気なく、同じ物が食べられなくても、ベッドサイドではなく食堂に行って、一緒に食べたい。とはいえ付き添っている者にすれば、病院を出て、一息ついてから食事をしたいと思う日もあり、悩ましいことでした。
今にして思えば、在宅介護の時期は一緒に、同じ物を食べることができました。とくに後半は、食べるのが困難な状態ではあったので、全く同じ物というわけにはいきませんでしたが、共に食卓を囲めば、幸せが味わえました。
日々の営みの食事を、そのときは「幸せ」などと意識しませんが、一緒にごはんを食べることができなくなると、幸せな思い出に気がつきます。在宅介護での食事の支度・介助は介護者にとって負担が大きいものではありますが、誰しも限りある時間の中で1食、1食大切な、幸せを味わうチャンスだったのです。
さて我が家の場合、並べる料理がまったく違うと、すねるというか、ひがむというか、かなしむというか…だったので、食事内容は要介護者が食べられる物になるべく合わせていました。けれど「やさしい献立」シリーズの品揃えを見ていたら、これらを利用すれば、一緒に、同じ物を食べる工夫がしやすいと感じました((2)(5)対応)。それは、
a.ソースとして使う
b.要介護者の主食(または主菜)にし、似通わせた料理を作る
という工夫です。
aは、温かい豆腐や麩、マッシュポテト、マッシュアボカドなど要介護者が食べやすい物に、「やさしい献立」シリーズの『鶏だんごの野菜煮込み』や『貝柱のマカロニグラタン』、『鮭と野菜のかきたま』、『かぼちゃのグラタン』、『やわらかおかず かにのクリーム煮』、『なめらか野菜 各種』、『なめらかおかず 各種』等を温めて、かけるというもの。
写真は豆腐+『やわらかおかず 大根の鶏そぼろあん』(写真 G)。要介護者分は豆腐少なめ、おかず多め。介護者分はおかず少なめ(+めんつゆ少々)、豆腐多めの副菜です。場合によっては介護者分の「台の食材(豆腐など)」は変えても、同じ物感があります。
bは、介護者(家族)分の献立を似通わせて作るということ。写真は、要介護者は「やさしい献立」シリーズの『チキンライス』+温泉卵、介護者分はトマトライス(炊飯器にトマトを丸ごと入れて炊き込み、炊きあがったら皮を取り除き、混ぜるだけ。昨今、手軽でおいしいと話題の炊き込みごはんです)+温泉卵にしてみました(写真 H)。
もうすこし手間がかけられるなら温泉卵ではなく、スクランブルエッグを作って、オムライス風に盛りつけてもおいしそうです(卵にマヨネーズを加えると、ふんわりでき、冷めても固くならないそう。 参考:http://www.kewpie.co.jp/mayokitchen/urawaza/index.html)。もちろん介護者分は別にチキンライスを作るのもよいですね。
「やさしい献立」シリーズのラインナップには『鶏と野菜のシチュー』や『海老だんごのかきたま』、『煮込みハンバーグ』、『たらつみれのみぞれ煮』、『すき焼き』、『肉じゃが』等々、介護者の献立と合わせて利用しやすいメニューも豊富なのです。
介護者分の具材の切り方や盛りつけに心を配ると、より似通わせることができます。写真Iは、「やさしい献立」シリーズの『肉じゃが』に、介護者用の肉じゃがを作る際、味つけ前に少量よけておいたジャガイモとタマネギ(よく煮えている状態)を足して盛りつけ、介護者分と似通わせた物です。
こういった便利な市販のシリーズを活用することによって、家族全員の笑顔が増える食卓が実現しやすくなるのではと感じました。
次回は、9月6、7日に開催された第20回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会「食べる喜び支える楽しさ ー広がるチームー」のレポートを掲載予定です。