ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第13回 在宅介護を思い出しながら、 「やさしい献立」を食べてみました
はじめに
連載11、12回で取材をしたキユーピー株式会社の市販介護食品「やさしい献立」シリーズ。記事を書くからには、食べてみなくてはと思い、住まいの側にあるスーパーマーケットでひとまず数品選び、買ってきました。約60品目の中から何を食べてみるか。かつて闘病する友人を見舞った折や、付き添い、在宅介護をした頃に記憶を巻き戻し、彼、彼女らが訴えていた食事の問題を思い出しながら、選びました。
食べることが難しくなったときの問題は本当にさまざまで、私が知っている数名の状況や問題にいくつかの類似点はあったものの、それぞれ多様でした。原因が違えば、全く違う状況や問題もあるでしょう。
ですから現在、摂食嚥下のトラブルを感じている方や介護をされている方に、必ずしも全て参考になるわけではいとは思いますが、私がただ食べてみるよりも、実際に困っていたことの「対応になること」を考えつつ、食べてみることにしたのです。
そして、いくつかの試みを行ってみて、選んだ品々が使いやすいと感じたので、ご紹介することにしました。「やさしい献立」シリーズの品々は温めたり、冷やすだけで、おいしく食べられますが、食事を充実させる工夫を考えるときに、食材の一つとしても使い勝手がよい物でした。
私が介護を経験した上でとくに訴えが多かった問題は、
- (1)食べ物が口の中でしみて痛い(刺激物はNG)
- (2)甘味以外の味がほとんど感じない。でも風味が分かる物もたまには食べたい
- (3)氷が食べたい
- (4)1度にいっぱいは食べられない(栄養補助ドリンクを1食1缶飲むため)
- (5)家族と一緒に、同じ物が食べたい
でした。以下、記事中でもこの番号で解説します。
夕暮れ時、カレーの香りは食欲をそそる
夕方、散歩をしていたら、どこかの家からカレーの香りが漂ってきました。在宅介護をしていた要介護者は薬の副作用などで口内炎ができ、味覚障害・嗅覚障害・嚥下障害(口が開きにくい日もあるなど日によって差がありましたが、ユニバーサルデザインフード区分でいうと1、2.介助の必要はなく、自分で食べられる)があって、食欲は相当ダウンしていた時期でしたが、香りを感じて喜んでいました。
常々(1)と(2)は同時に訴えていたので、スパイスの刺激は大丈夫かと不安はありましたが、カレーライスはルーとごはんを混ぜて食べるから、飲み込みやすそう。香りが食欲をそそるカレーが食べられたら元気が出そう、ということで工夫が始まりました。
最も甘口のルーを控えめに使い、ジューサーで生の「にんじん」や「りんご」を搾って、その搾りカス(といってもジュースたっぷり含む)を大量に入れて、刺激を抑えたカレーを作りました。料理していると香りが分かって、食欲は出たようでしたが、食べてみると風味は薄く、コクがありません。また、ルーを控えるほど、食べ物のまとまりやすさがわるくなり、むせやすくなってしまいます。
そこで、まとまりやすさ重視&刺激抑制で、マッシュポテトや温泉卵でカレーを伸ばすと、まずまず好評。とろろは不評。そんな経験があったので、「やさしい献立」シリーズの『なめらか野菜』を見たとき、「コレだ!」とピンときたのです。
写真は、家族が食べるカレー(甘口)に『なめらか野菜 にんじん』を加えた物です(写真 A)。にんじんポタージュも作れるペーストは、カレーと相性もよく、加えることでコクが出ます。ほかに『なめらか野菜 グリーンピース』『なめらか野菜 コーン』『なめらか野菜 かぼちゃ』があり、どれもカレーと合わせられそうです。
とはいえ、しみるか、しみないかは口内炎のない私には分かりません。けれど生搾りカスやマッシュポテトで伸ばした物に比べると、痛みなく食べられるのではないかと思えました。
カレーに限らず、ほかの料理の場合も(1)(2)を訴える方への対応を考えるとき、『なめらか野菜』『なめらかおかず』は使い勝手がよいのではないかと思います。
例えば、市販のお惣菜と和えて1品。調理時間が短縮でき、家族と一緒に食べられます((5)対応)。写真は、かぼちゃサラダ+『なめらか野菜 かぼちゃ』(写真 B)、白和え+『なめらかおかず うぐいす豆』(写真 C)です。家族が食べる分にも、『なめらか…』を少々混ぜたら、見た目も似通いました。
家族と同じ物を食べられることは、要介護者の喜びになるだけでなく、調理をする介護者の負担軽減になります。
私が在宅介護をしていた頃に経験したことですが、要介護者が食事困難になり、食べられる量が著しく減った時期がありました。その日の体調によって、前の日に食べられた形状の物が、次の日には食べられなかったりすることがあります。そうすると、食事の回数を増やし(1食は少なく、体調のよい時間を見計らって、間食を勧める)、その都度調理をしたので、1日の大半を食事の支度に費やすこともありました。その時々の体調に合わせて、レトルトの区分を選ぶなど賢く使用することで調理時間の短縮にもつながります。
また、介護をする間にも自分の仕事もありましたので、作れるときに、いくつかの料理をまとめて作り、小分けして、冷凍ストックしていました。しかし、それでは同じパターンの献立が続いてしまいます。レトルトは買い置きができるので、ワンパターンになりがちな献立に変化をつける役割も果たせるのではないでしょうか。