ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第11回 未来の食卓を創造する
キユーピー株式会社の取り組み(前編)
はじめに
すこし前、住まいのある町会の先輩主婦の皆さんと買い出しに行ったスーパーマーケットで、介護食品が並ぶコーナーを見ていたら、「あら、こういう商品があるのね」「おばあちゃんの介護をしていた頃は無かったわよ」「200円しないの、便利ねぇ~」など一同感心しきりでした。
その店には介護食品コーナー(棚2列+冷凍庫1列)があり、レトルト&パック詰、冷凍食品が常時200品目ほど陳列されています。陳列棚の一角に、後日取材に行く予定のキユーピー株式会社製「やさしい献立」シリーズ約60品目が並んでいたので、私は目を留めていたのでした。
先輩主婦の皆さんは親の看取りを終えた年代。私を含め数人は親の老い、介護に直面する年代。そして皆がいつか自分や家族の食の問題でお世話になりそうな商品ということで、しばらく棚のラインナップを吟味することとなりました。
「和洋いろんなメニューがあるのね」「デザートもあるわよ」「野菜のペースト! これ作るの手間なのよ」。高い関心が寄せられた反面、よく来ている店に介護食品コーナーがあったことを事前に知っていた人はおらず、まだ広く認知されていない介護食品市場なのだと感じました。
とはいえ、この市場をゼロから起こし、ユーザー100万人規模となるまで切り開いてきたのはキユーピー株式会社です。
1960年からベビーフードを発売し、1972年からは病院・施設用栄養補給食等の「ジャネフ」ブランドを発売し、その後、流動食や治療食の分野を充実して、それらを礎に1998年、日本初の市販用介護食を発売しました。未来のユーザーの食卓に愛が溢れることをイメージして、マーケットを耕し、育む食品メーカーのものづくりについて、お話をうかがってきました。