ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第164回 配食事業者を対象にした
「食環境整備」講習 後編
はじめに
前回に続き、東京都福祉保健局が公益社団法人東京都栄養士会に委託して開催した「令和元年度高齢者の食環境整備事業(配食事業者を対象とした講習会)」(2019年12月)に取材参加させていただいて得た雑感をまとめます。
“知り合う機会”をぜひ継続的に!
配食事業者の取組事例披露も期待
前回も述べましたが、講習会では“管理栄養士”という専門職の知識・技術の多様性を再確認し、配食事業者と栄養ケア・ステーションの連携の可能性と意義を考えさせられました。
そこで、いくつか今後さらに知りたいと思ったこともありました。
本講習は、2017年3月に国が公表した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」[*1]に準拠する良質な配食事業が広がることを期して開催されたものですが、ガイドラインの趣旨の一文に、
「健康・栄養状態を適切に保つことができ、かつ口から食べる楽しみも十分得られるような食環境整備、とりわけ良質な配食事業を求める声は、今後ますます高まることが予想される」
とあるので、「口から食べる楽しみ」の増進という点についてどのような配慮やアクションが配食事業者に求められるか、栄養ケアを兼ねてどのような先駆例があるかぜひうかがってみたいと思いました。
一方、ガイドラインには「第4 地域高齢者の特性と配食に係る課題」のひとつとして、
「利用者等が配食を食事の教材と捉えつつ、配食の献立構成を参考に、配食以外の食事もできるだけ適材なものとしていくことが重要となる。適切な栄養管理体制の下、利用者等のこうした取組を支援する事業者の増加が期待される」
とも。確かに、一般家庭の調理では継続した栄養管理や物性の調整が困難で、高齢世帯では俗に“ばっかり食”とも呼ばれるような偏った食事が続いてしまうことも少なくないでしょう。
そして講習でも紹介された通り、菊谷武先生(日本歯科大学大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授・同口腔リハビリテーション多摩クリニック院長)らの調査[*2] で在宅療養中の高齢者の約7割が自身の咀嚼・嚥下機能に合っていない食形態の食事をとっていることがわかっていますから、範となる配食サービスがあるととても助かります。とろみ調整食品の存在や使い方、市販介護食の応用などの情報提供もありがたいです。
そのような情報提供の参考例ということでしょうか、講習会では参加者に株式会社ヘルシーネットワークが製作・発行した冊子「食べやすい食事と上手に食べるための食事の工夫」[*3]が配布されました。
冊子は表題の通り「食べやすい食事」について要点をコンパクトにまとめたもので、一般の人が“食べづらい”と感じたときに「なぜ食べづらいか」「誤嚥のリスク」「食品の物性と食べやすさ」などを知り、食生活にすぐ取り入れられる情報提供です。
配食事業者と栄養ケア・ステーションの連携でこのような情報提供が進むことも食支援として重要で、安全な食事が広まるために不可欠なことだと思います。
講習会が継続的に行われ、配食事業者と栄養ケア・ステーション並びに管理栄養士のつながりが深まることを願うとともに、本講習を機にガイドラインを業務改善に反映した配食事業者の先駆例、栄養ケア・ステーションとの連携事例などが吸い上げられて、披露されることも期待したいと思いました。
[*1] 地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/guideline_3.pdf
[*2]菊谷 武 著「運動障害性咀嚼障害を伴う高齢者の食形態の決定 」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/8/2/8_126/_pdf
[*3]食べやすい食事と上手に食べるための食事の工夫
https://healthy-food-navi.jp/navi_wp/wp-content/uploads/食べやすい食事の冊子.pdf