ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第163回 配食事業者を対象にした
「食環境整備」講習 前編
はじめに
東京都福祉保健局が公益社団法人東京都栄養士会に委託して開催した「令和元年度高齢者の食環境整備事業(配食事業者を対象とした講習会)」に取材参加させていただきました(2019年12月)。 “食環境整備”に目を向け、業務改善に努めている配食事業者を栄養のプロ集団が支援し始めています。そのことを食支援に携わるさまざまな職種の方々にも知っていただきたく、講習内容のあらましをご紹介するとともに、取材参加して感じたことをまとめます。
栄養ケアの意義、再確認!
栄養士の多様な引き出し、知る機会にも
本講習は、2017年3月に国が公表した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」[*1] に準拠する良質な配食事業が広がることを期して開催されました。
東京都栄養士会が東京都から委託を受け、高齢者向け配食事業者を対象に「高齢者に多くみられる低栄養」や「疾病別栄養ケアのポイント」「アセスメント手法」などについて理解を深めてもらえるようプログラムを構成。講習は全2回(全4講習)、都内2箇所で開かれ、計72名の参加がありました(主催者発表)。
講習1は、本川佳子さん(東京都健康長寿医療センター研究所)の「ガイドライン総論とアセスメント手法」で、現代の高齢者の食環境や栄養状態について解説があり、そもそも加齢が低栄養のリスクとなり、予防のために口腔機能を維持して食品摂取の多様性を保つ大切さが説かれました。
講習2は、田村清美さん(東部地域病院栄養科主任技術員)の「衛生管理及び嚥下調整食」で、2019年6月に一部改正された食品衛生法と衛生管理の新基準として義務化されたHACCP(ハサップ)の概要解説のほか、高齢者の摂食嚥下障害の原因や症状、食べやすい食事の調理法が紹介されました。
講習3は、原純也さん(武蔵野赤十字病院栄養課長)の「病態別アセスメントと献立展開」で、エネルギー量や食塩量などの調整が必要となる糖尿病や高血圧症、腎臓病の食事・献立のポイントが説かれ、複雑な栄養ケアにおいて管理栄養士との連携が重要不可欠であることが述べられました。
講習4は、蒲祥子さん(認定栄養ケア・ステーション ヘルシーネットワークつながる)の「栄養ケア・ステーションとの連携と配食サービス実践事例」で、配食事業者と栄養ケア・ステーション並びに管理栄養士との連携が実際にどのように行われるべきものか示唆しました。
4つの講習を通じて、筆者はまず高齢者の健康維持・増進に栄養ケアがとても大切なこと、そして現在は栄養ケアが十分でないこと、配食事業者が利用者(高齢者)の食の量・質に配慮し、栄養ケアに参加する意義を再確認しました。
さらに参加した配食事業者の方には“管理栄養士”という専門職の持っている引き出しの多様性を知り、連携する意味を実感した機会となったのではないかと思いました。
他の専門職と連携する必要を分かっていても、異なる専門職がどんなことができる存在なのか知らなければ積極的につながりをつくりにくいでしょう。そこでこの“知り合う機会”は大変貴重だったのではないかと思います。
次回に続きます。
[*1] 地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/guideline_3.pdf