ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第152回 口腔ケアから始まった街づくり
新食研、10周年記念勉強会
はじめに
先日、新宿食支援研究会(以下、新食研)設立10周年記念勉強会に参加しました。
さまざまな専門家を毎月講師にまねいて定期開催されている新食研の勉強会ですが、10周年記念ということで、講師は歯科医師で、新食研代表の五島朋幸先生でした。
五島先生のお話の一部を紹介しながら、感じ、学んだことをまとめます。
食支援で安心長寿立国
まずは9月1日、高田馬場へGO!
五島先生のお話は大きく分けて2部構成でした。
はじめに、食べられる口づくりについて。主になぜ口腔ケアが必要か? というお話です。
そんなこと、今さらいうまでもないと思いますか?
そこは食支援のフロントランナーとして走り続ける五島先生ですから、ただそういう話ではありません。
基本はブラッシングで歯垢を落とし、歯周病菌を減らすこと。口腔への刺激で分泌される神経伝達物質・サブスタンスPの分泌を高め、嚥下反射を促して、飲み込みの機能を高めること。
だけれど「口腔清掃」でも「口腔訓練」でもなく「口腔ケア」という。
では「ケア」とは何か? 五島先生は問いました。
この問いは、口腔ケアを実践する人、食支援に携わる人にとって大変重要でしょう。
この問いに対して、自分なりの答えをもっていることが、自身のワークに対する誇りではないでしょうか。
五島先生のいうケアは、誤嚥性肺炎を予防し、最期まで安全に食べ続けることを支えるあらゆるワークが含まれていました。
筆者は「最期まで安全に食べ続ける」は「最期まで普通の暮らしを続ける」と同義語だと思います。
人生100年時代を迎えたことを我らが一同に喜べるか、嘆くか。
この国の多くの人が不安をもっているポイントです。
「食べられない」は「自立できない」「認知できない」といったことと連なっている。そのとき頼りになるのは“2000万円”じゃないだろう、みんな気がついているでしょう。
地域専門職と患者・家族がコミュニケーションによって信頼のある関係を築き、みながその人らしい食生活の維持を支える。
それが当たり前にある社会でないと、安心して寿命を生きられません。
安心長寿大国日本となるには、現状の「食べられない」をなんとかしなければならない。「食べられない」人を知っている人なら、それが分かるはずです。専門知識に乏しい筆者でさえ、地域の高齢者を思い浮かべると、切実にそれを感じます。
「最期まで口から食べられる」を現実のものとするとき、支援を必要とする人が1万人を超えている新宿ではどうするか?
お話の後半は、多職種が集う新食研の活動を紹介するものでした。
街づくりは、MTK&H®。
食支援が必要な人を、見つける(M)、つなぐ(T)、結果を出す(K)。このサイクルを地域で無限につくり出すこと。
さらに社会に広める(H)こと。つまり専門職から市民を巻き込む食支援文化を育て、新宿から全国へ食支援を広げることがイメージされています。
そして10周年を迎えた新食研は、新メンバーも多数増えて、新しいワーキンググループが誕生し、これまでとは違う結果を目指して新たな活動をいくつもスタートさせていると紹介がありました。
新食研のMTK&H®について詳しくは、9月1日(日曜日)に開催される「第3回 最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会 ~ごちゃまぜ社会でつくる未来~(タベマチフォーラム)」(東京・高田馬場、東京富士大学二上講堂)でも語られます。すでに参加申し込みが始まっています。
最期まで口から食べられない人がたくさんいて、最期まで食べられないこと、食支援があることを知らない人もたくさんいます。
先の記事でも紹介した通り、Googleで「食べられない」で検索すると、食欲不振や拒食症の記事に続き、6位に五島先生の記事が出てきます。
筆者が意図した食支援の対象となる「食べられない」に関する情報はまだ少なく、検索結果のトップページに五島先生の記事しかありません。
インターネットでは「食支援」「嚥下障害」など専門的な言葉を知らなければ情報にたどりつくのは難しいということです。
本当に、みなでMTK&H®に関わり、今、勢いを増さなければ、明るい未来はのぞめません。活発な代謝をしながら、MTK&H®を進める新食研から、今秋も刺激を受け、それぞれの地域にぜひ持ち帰りましょう!
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