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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第150回 5年前と同じワードで
ネット検索してみたら?

はじめに

 今回、連載が150回となるので、食べることを支える取り組みを取材してきたこの5年間をすこし振り返ってみました。

 5年というのは過ぎてしまえばあっという間ですが、食べることの支援に関連する「低栄養」「フレイル」なども広く知られるようになり、食支援に携わる人には確実に前向きな変化が起きていると感じています。

「食べられない」認知向上⁈
支援情報の一層の発信を!

 約10年前、身近な人たちが立て続けに闘病することとなり、4人が「食べられない」ことで痩せて、亡くなりました。今になってみれば、「食べられない」理由はいろいろでした。しかし当時の私には理由も、どうしたら再び食べられるようになるのかも、分かりませんでした。4人のうち3人はまだ40代で、がんで、ひとりが高齢者で、非がんです。
 いずれも病気の治療は積極的に進められましたが、食べられなくて痩せていくことに対して、医療的な支援はほぼないに等しかったので、その後、「医療や介護の中の食支援」を取材したいという本連載の動機になりました。

 ですから10年前、私は、食べられなくて困っている人の友人・家族として、インターネットで情報を探し、友人たちを見送った後、5年前には同様に取材先を探したのです。
 「食支援」という言葉は知りませんでしたから、「食べられない」とか、「食べられない がん」「食べられない 高齢者」などというワードで探しましたが、具体的な情報は得られませんでした。

 ところが最近は様子が違っています。「食べられない」というキーワードで検索すると、食欲不振や拒食などの情報に続いて5番目に新食研代表の五島朋幸先生の記事が出てきます。
 「むせる」や「飲み込み できない」などのワードでも、情報をみつけやすくなっています。
 「誤嚥」「嚥下」といった難しい言葉も、「誤嚥性肺炎」の認知向上によって知られ、予防やケアにまつわる情報が増えました。
 さまざまな対象別に、必要な栄養ケアに関する情報も探しやすく、それだけ情報を必要とする、困っている人が増えているとも考えられますが、情報がみつけやすくなったことは良い変化でしょう。

 とはいえ、まだ支援方法や支援者へのアクセス方法に関して、情報はとても少ないです。

 また、いくらか専門用語が知られたといっても、医療の専門用語には難解で、一般的に馴染みのない言葉が多く、一般の人向けに書かれている様子なのに、医学的専門知識がなければ知らない文章も多数あり、それはとてももったいないことだと思います。

 一般の人が、普通の言葉で検索したとき、必要な情報にたどり着けるように、情報を発信する側が工夫しなければ、せっかくの記事が読んでもらえません。
 出版界では、一般的に「読む力」が低下しているといわれて久しく、簡潔さ、やさしい表現が重視されています。

 食支援に携わる方々にはぜひ、積み重ねてきた経験や知識をよりオープンにすることを考えていただきたいと思います。
 同職種の方や、一般の方に向けて情報発信し、シェアを広げましょう。その際にはぜひ、表現にも注意をしてみてください。もしご希望があれば、原稿づくりなどのお手伝いをさせていただきます!
 私自身も、この振り返りを機会に表現に気をつけたいと考えています。

 これまでたくさんの食支援に携わる方に取材のお時間をいただき、情報をいただいているおかげで連載を続けられることに感謝しております。

 心よりお礼申し上げます。ありがとうございます。